奇面城の秘密

15話 四十面相の美術館

2,380字 約5分 2017年11月13日 公開

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 ポケット小僧は、いつもポケットに、万年筆がたの懐中電灯を持っていますので、それをつけてあたりを照らしてみました。

 コンクリートの壁にかこまれた、物置部屋のようなところです。すみずみに、木箱(きばこ)だとか、いすやテーブルのこわれたのなどが、つみあげてあります。いっぽうの壁に、ドアがついていることがわかりましたので、そのドアに耳をあててみましたが、なんの音も、聞こえません。とってを回すと、ドアはスウッとひらきました。

 首をだしてのぞいてみると、そこはコンクリート壁の廊下のような場所でした。小さな電灯が天井についていて、ぼんやりと、あたりを照らしています。コンクリートをぬったままで、なんのかざりもない、まるでトンネルみたいな廊下です。

 ポケット小僧は、その廊下づたいに右のほうへ歩いていきました。なにしろ、ポケットにはいるくらい小さいといわれているのですから、うす暗い廊下を壁づたいに、こそこそ歩いていますと、まるで目につきません。

 もしむこうから人がきても、壁にひらべったくからだをつけてしまえば、気づかれる心配もないほどです。

 トンネルのようなうす暗い廊下をひとつまがって、十五メートルほどいきますと、道がふさがってしまいました。

 大きな岩が、通せんぼうをするように、廊下のまんなかに立っているのです。

 ふと気がつくと、どこか遠いところから、ごうごうという水の流れているような音が聞こえてきます。

 岩の両側に二十センチぐらいのすきまがありましたので、そこからのぞいてみますと、岩のすぐむこうに、底もしれないまっ暗な穴がありました。さっきのへんな音は、その穴の底から聞こえてくるようです。

 つめたい風が、サアッと、顔をかすめました。

「ああ、わかった。この下に川が流れているんだ。」

 何メートルともしれない深い谷底に、川が流れているのです。ですから、そこは穴ではなくて、廊下と十文字になった谷なのです。

 深い谷が廊下をよこぎっていて、その底を水が流れているのです。

「ここは、いったいどこだろう。たてものの廊下のまんなかに、こんな深い谷があるなんて聞いたこともない。へんな家だなあ。」

 ポケット小僧は、こわくなってきました。ぶるぶるッと()ぶるいして、うしろのほうへひきかえしました。

 もとの物置部屋の前をとおりすぎて、もっと奥へ歩いていきますと、また、廊下がまがっていて、そこに大きなドアがしまっていました。

 そのなかには、明るい電灯がついているとみえて、ドアのかぎ穴から光がもれています。耳をすますと、その部屋のなかでだれかが話をしているようです。

 ポケット小僧は、かぎ穴へ目をあてて、なかをのぞいてみました。

 それは、アッとおどろくような、りっぱな部屋でした。きらきら光るガラスばりの陳列だなのようなものが、いっぱいならんでいて、そのガラスのなかには、黄金の仏像や、美しいもようのある大きなつぼや、いろいろな彫刻や、宝石をちりばめた王冠や、くびかざりなどが、目もまばゆいばかりにかざってあるのです。

 天井からは、何百という水晶(すいしょう)の玉でかこまれたシャンデリアがさがり、その明るい光が、かぞえきれない美術品を照らしているのです。

 シャンデリアの下に、りっぱな彫刻のあるまるいテーブルがおかれ、金色の四つのいすが、それをとりかこんでいて、そこにふたりの男が、こしかけていました。

 ひとりは、警視総監に化けたままの四十面相。もうひとりは、制服警官にばけたままの部下でした。きっと、こいつが、ポケット小僧のかくれているかばんをはこんだのでしょう。

「いつ見てもいい気持ちだな。どうだ、このおれの美術館は……、東京の博物館だって、こんなに美しくはないだろう。

 ハハハハハ……。世間のやつらは、こんな山の中に、四十面相の美術館があるなんて夢にも知るまい。明智探偵だって、警視庁のやつらだって、おれの奇面城がどこにあるか、すこしも知らないのだ。

 おれは、いままでたびたび明智につかまったが、ここだけは知らせなかった。おれは、ほうぼうにすみ家をもっているからな。そのどれかを知らせてやればよかったのだ。この美術館のある奇面城だけは、ぜったい知らせることはできない。」

 四十面相が、ほこらしげにいいますと、警官すがたの部下が、ごきげんをとるようにあいづちをうちました。

「そうですとも。まさかこんな山の中の樹海(じゅかい)(海のように、ひろい森)のまんなかの、あの人間の顔とそっくりの大岩の下に、こんな美術館があろうなんて、だれが想像するでしょう。

 かしらは、じつにいい場所をおえらびになりましたよ。

 そのうえ、あの恐ろしい番人がいれば、たとえ、人間が奇面城にちかづいてきても、あの番人を見たら、まっさおになって逃げだしますよ。われわれにたいしては、ねこのようにおとなしいやつですがね。ハハハハ……。」

 それを聞いて、ポケット小僧は、いよいよ恐ろしくなってきました。

「それじゃここは、山の深い森のまんなかなんだな。そこに、人間の顔のような大岩があって……、おれはいまその中にいるんだな。

 だが、恐ろしい番人って、なんだろう? じぶんたちにはねこのようにおとなしいといったが、そいつは、いったいどんなやつなんだろう。人間じゃないかもしれないぞ。」

 それから、部屋のなかのふたりは、まだしばらく話をしていましたが、ぼつぼつ寝室へひきあげそうになりましたので、おどろいてドアをはなれ、もとの物置部屋へひきかえしました。

 まず、ドアのうちがわに長い板ぎれを立てかけて、だれかがドアをひらけば、それがたおれて音がするようにしました。その音で、目をさますためです。

 それから、こわれたいすを三つならべて、その上に、ごろりとよこになると、だいたんふてきなポケット小僧は、まもなく、ぐっすりと眠りこんでしまいました。

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