夜光人間

10話 怪人のおくの手

2,593字 約5分 2018年7月15日 公開

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 それから、どれほどたったでしょう。ほんとうは、五分ぐらいだったかもしれません。しかし、少年たちは、まるで、一時間もたったような気がしました。

 そのとき、やっと、手ごたえがあったのです。少年たちは、ほそびきが、ぴんとはりつめて、草をはねのける音をききました。

 もう、声をたてることはできません。みんな、おたがいの手にさわって、しっかりしろと、はげましあいました。そして、草の中に寝そべったまま、ほそびきの上のほうを、じっと、見つめるのでした。

 はりつめたほそびきが、びんびんと音をたててゆれました。アッ、すべってきます。まっ黒なやつが、二本のほそびきをつたって、サーカスの曲芸師のようにすべってきます。

 少年たちは、草の中に、からだをおこして、いつでも、とびかかれるよういをしました。

 どしんと、地ひびきをたてて、黒いやつが、しりもちをつきました。しかし、すぐに、サッと、とびおきて、ほそびきを、ほどこうとしています。

 怪物は、ぴったりと身についた黒いズボンをはき、黒いたびをはき、顔も黒いきれでつつみ、肩には、黒いみじかいマントのようなものを、はおっていました。巨大なコウモリのようなかっこうです。

 その怪物が、地面につきさした棒のところにしゃがんで、ほそびきを、ときにかかりました。その手もまっ黒です。黒い手袋をはめているのでしょう。

 怪物のからだは、一センチもあまさず、黒いきれで、かくされています。青銀色に光るからだを見せないために、どこからどこまでも、おおいかくしているのです。

 さっき、ヒノキのてっぺんで、夜光人間が、だんだん消えていったのは、黒いズボンをはき、黒いシャツを着、黒いマントをはおって、つぎつぎと、光るからだをかくしていったからです。

 そのとき、小林君は、そばにうずくまっていたチンピラたちのからだをたたいて、あいずをすると、パッととびおきて、怪物にしがみつきました。

 チンピラたちも、おくれてはいません。小林君といっしょに、怪物の両方の手にとびかかっていきました。

「ワアッ!」

 このふいうちに、怪物は、びっくりして、おもわず叫び声をたてたのです。

 それから暗闇の草の中で、恐ろしい組みうちがはじまりました。怪物の右の手に四人、左の手に三人の少年が、ぶらさがっていましたが、組んずほぐれつするうちに、いくども手をふりほどかれました。

 しかし、いくらふりほどいても、つぎの瞬間には、少年たちが取りついていました。

 さすがの怪物も、だんだん弱ってきたようです。もうふりほどこうとしません。

 そのとき、小林少年は、七つ道具のひとつの、呼びこの笛を取りだして、ピリピリピリピリ……と吹きならしました。やしきの中の刑事たちに、応援をたのむためです。

「さあ、みんな、もうけっして、手をはなすんじゃないよ。こいつを、このまま門のほうへ、ひっぱっていくんだ。そして、刑事さんたちに、引きわたすんだ。」

「うん、だいじょうぶだ。もうはなすもんか。」

 チンピラたちは、口々にそう答えながら、一生けんめいに、怪物の両手にしがみつくのでした。

 しがみついたまま、少年たちは、やしきの門のほうへ歩きだしました。子どもといっても、七人の力ですからかないません。まっ黒な怪人は、両手を引っぱられるまま、しかたなく、少年たちについてきます。

 しかし、怪物は盗みだした推古仏を、いったいどこに、かくしているのでしょう。両手に持っていないことはいうまでもありません。もし、そのとき、小林君が怪人のからだをさがしたら、シャツのポケットかなんかに、あの仏像をいれてあるのを、取りもどすことができたのかもしれません。高さ十五センチの小さい仏像ですから、どこへでもかくせるのです。

 ところが、小林君は残念なことに、怪人を刑事たちに引きわたすことで、心がいっぱいになっていて、そこまで考えるゆとりがないのでした。

 七人の少年たちは、怪物の両手にしがみついて、ぐんぐん、ひっぱっていきました。原っぱをでて、やしきの横丁へまがりました。

 そのときです。

 じつに、おどろくべきことが、おこったのです。夜光人間は、最後のおくの手をだして、奇々怪々の魔術をつかったのです。

「ギャッ!」

という恐ろしい叫び声がひびきわたり、七人の少年たちは、かさなりあって、地面にたおれていました。

 いったい、どうしたのでしょう。怪物に七人の少年をつきとばすような力が、のこっていたのでしょうか。

 いや、そうではありません。少年たちは、怪物の手にしがみついたまま、いちども、はなさなかったのです。いまも、そのまま、しがみついているのです。

 それなのに、どうして、たおれたのでしょうか。怪物がさきにたおれて、そのいきおいで、みんなをたおしたのでしょうか。

 いや、そうでもありません。怪物はもう、そこにはいなかったのです。闇にまぎれて、うしろのほうへ、原っぱのほうへ、逃げさってしまったのです。

 それとわかれば、すぐに、とびかかっていったのでしょうが、少年たちは、すこしも気がつきませんでした。

 なぜといって、少年たちは、怪人の右手に四人、左手に三人、いまでもまだ、しがみついていたからです。

 これはいったい、どうしたというのでしょう。怪物の両手が、すっぽりと、ぬけてしまったのです。そのいきおいで、少年たちは、おりかさなって、たおれてしまったのです。

 両手をきりはなして逃げていくなんて、いくら化けものでも、へんではありませんか。

 小林君は、やっと、そこへ気がついて、にぎっている怪人の手をしらべてみました。

 その手には、黒いシャツが、ぴったりくっつき、その上に黒い手袋をはめていました。いそいで手袋をはずしてみると、中から、ビニールでこしらえた人形の手が出てきたではありませんか。

 ああ、なんということでしょう。暗闇の原っぱで、組みあっているあいだに、悪がしこい怪物は、こういうときの用意に、マントの中につりさげていた人形の腕を、少年たちににぎらせてしまったのです。そして、さもじぶんの手のように、ここまでひっぱってこられたとき、ふいに人形の手をはなして、少年たちをころばせたのです。

 少年たちは、やっと、そこへ気がつきましたが、怪人はとっくに、闇のかなたに消えうせていました。いまさら追っかけても、とても見つけだせるものではありません。

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