6話 ふたりの一郎君
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おとうさんと一郎君は、むちゅうになって、白犬のぬいめをとき、なかのワタを、みんな取りだしてしらべましたが、黄金のトラは、どこにもないのです。
「オーイ、きみたち、あやしいやつを見なかったか。」
おとうさんは、みはりをしている、ふたりの青年に声をかけました。青年たちはおどろいて、かけこんできました。
ふたりのボクサーは、すこしも、もちばをはなれなかったのです。ドアも窓も、しまったままでした。それに、魔法博士は電話をかけていたのですから、ここへこられるはずはありません。
ふしぎな魔法をつかったのでしょうか。博士のからだが、ふたつになって、空気のような目に見えない姿で、この部屋へしのびこんだのでしょうか。
おとうさんと一郎君と、ふたりの青年とで、応接間のなかを、くまなくしらべましたが、どこにもあやしいところはありません。ぬけ穴はもちろん、人間のかくれるような場所もなく、黄金のトラも発見されませんでした。
一郎君はいそいで、小林団長に電話をかけましたが、どこかへ出かけて、るすでした。小林少年は、いったい、どこにいたのでしょうか。
うちじゅうが、おおさわぎになりましたが、ふつうのどろぼうではないので、警察にとどけるわけにはいきません。ただ、ふしぎだ、ふしぎだと、いいあうばかりでした。
六時ごろでした。みんなが応接間に集まっているところへ、一郎君が学校のカバンをさげて、はいってきました。そして、へんなことをいうのです。
「おとうさん、白犬は?」
おとうさんは、びっくりして、一郎君の顔を見つめました。
「おまえは、なにをいってるんだ、白犬は、さっき、こわしてしまったじゃないか。」
「えっ、こわした。それじゃあ、もしや、あれを、盗まれたんじゃありませんか。」
いよいよ、へんです。一郎君は気でもちがったのでしょうか。
「おまえ、学校のカバンをさげたりして、いったい、どこへいってたんだ?」
「ぼく、学校から帰るとちゅうで、むりに自動車にのせられ、さるぐつわをはめられて、へんなうちへつれていかれたのです。そして、いま、自動車で、うちの近くまできて、目かくしをはずされたんだけど、そのときには、もう自動車はどっかへいってしまって、かげも見えなかったのです。」
それから、午後四時には、一郎君とそっくりの少年が、白犬をだきしめて、応接間にいたのだと聞かされて、一郎君はびっくりしてしまいました。
「そいつは、ぼくのにせものです。魔法博士が、ぼくをへんなうちへ、とじこめておいて、そのまに、ぼくとよくにた子どもに、変装をさせて、ここへよこしたのです。
ぼくにばけた子どもが、白犬をだきしめているあいだに、ぬいめをといて、黄金のトラを盗んだのです。おとうさん、そのぼくとそっくりの子どもを、応接間に、ひとりぼっちにしておいたことはありませんか。」
「そういえば、わしが手洗いへいくあいだ、ひとりぼっちになっていた。さては、あのときに、盗みだしたんだな。」
おとうさんも、やっと、そこへ気がつきました。それなら、一郎のからだをしらべればよかったと思っても、もうあとのまつりでした。
そのとき、またチリリリ……と、電話がかかってきました。おとうさんが受話器をとると、さっきと同じしわがれ声で、
「どうです、魔法博士の手なみは? あんなによくにた子どもが、ほかにいるとは思わなかったでしょう……。」
魔法博士の電話の声が、つづきます。
「わしのおおぜいの少年の弟子のなかから、あんたのむすこさんと、よくにた子どもをさがしだし、その少年の顔を、わしのとくいの変装術で、一郎君とそっくりにばけさせた。それから、きょう、一郎君をわしのうちへつれてきて、一郎君の口のききかたや、みぶりを、その少年におぼえさせたのです。
ハハハ……、どうです。わしの魔法の力が、わかりましたか。さあ、こんどは少年探偵団が、黄金のトラを取りかえすのだ。一郎君に、そうおつたえください。」
そして、プッツリ電話がきれました。
さて、お話は、すこしまえにもどります。その日の、午後三時すぎから、井上さんのうちのまわりに、ふしぎなことが、おこっていました。
井上さんの門の前には、こじきのようなきたない少年が、へいにもたれていねむりをしていました。その横のポストのうしろには、酒屋の店員のような子どもが、身をひそめていました。裏門のそばの電柱のかげや、そのむこうのゴミ箱のかげにも、新聞配達とか、牛乳配達のような少年が、かくれていました。それらはみんな、少年探偵団員の変装なのです。
鍾乳洞
八人の少年が、いろいろの変装をして、井上さんのうちのまわりを、見はっていたのです。また、そこから百メートルほどの町かどに、一台の自動車がとまっていましたが、そのうしろの、荷物をいれるトランクのなかには、団長の小林少年が、やっぱり店員にばけて、身をひそめていたのです。運転手のゆだんを見すまして、そっとしのびこんだのでしょう。
自動車のとまっている近くに、公衆電話のボックスがありました。三十五―六に見える会社員らしい男が、ボックスのなかにはいって、電話をかけています。
その電話ボックスの外に、ひとりの少年が、小さくなってかくれていました。店員らしいふりをしていますが、顔は野呂一平君とそっくりです。あいきょうもののノロちゃんにちがいありません。
男は電話をかけおわると、ボックスを出て小林少年のかくれている自動車にのりこみました。
すると、うしろのトランクのふたが、五センチほど、そっと開いて、なかから、小林君の目がのぞきました。ボックスのかげにいるノロちゃんらしい少年が、それにむかって、しきりに手まねをして見せています。あやしい男が、自動車にのったことを、知らせているのでしょう。
そのあいずを見ると、トランクのふたは、そっとしまりました。しかし、自動車はまだ出発しません。だれかを待っているようです。
しばらくすると、井上さんのうちのほうから、一郎君とそっくりの少年が、いそぎ足にやってきて、キョロキョロと、あたりを見まわしながら、怪自動車に近づきました。
すると、さっき電話をかけた男が、自動車のドアを開き、ニューッと手をのばして、一郎君とそっくりの少年を、なかへ引っぱりこんでしまいました。
ふたたび、トランクのふたが、そっと開いて、小林君の目がのぞきました。ノロちゃんもまた、ボックスのかげから、手まねをして見せました。少年がのりこんだことを知らせているのです。
自動車は出発しました。それが、むこうの町かどに消えると、ノロちゃんは、電話ボックスのかげからとびだしてきました。そこへ、どこからともなく、いろいろの変装をした少年たちが集まってきて、口ぐちに、ささやきあうのでした。
「いまごろ、一郎君が自動車にのって、どっかへいくなんて、なんだか、おかしいね。」
「うん、あいつ、一郎君のにせものかもしれないぜ。」
電話をかけた男は、魔法博士が変装していたのです。あとから自動車にのりこんだのは、一郎君にばけた博士の弟子の少年でした。ですから、少年の服のどこかに、あの黄金のトラがかくされていたはずです。
博士と少年とは、宝物を取りかえして、秘密の場所へかくそうとしているのです。いったい、この自動車は、どこへいくのでしょうか。
小林君は、はやくも、それをさっして、トランクのなかへ、かくれたのですが、ノロちゃんの手まね信号で、いっそうはっきりしました。さすがの魔法博士も、じぶんの自動車に、敵の団長がしのびこんでいようとは、夢にもしりません。
小林君は、どこまでもあとをつけて、黄金のトラのかくし場所を、たしかめてやろうと決心しているのです。
自動車は一時間走っても、まだとまりません。小林君は、せまいトランクのなかで、からだをまげているので、だんだん、肩や腰がいたくなってきました。もう東京の町をはなれたらしく、道がわるくなってきたのが、わかります。そのうちに、のぼり坂になりました。右に左に、きゅうカーブを切りながらのぼっていきます。東京を遠くはなれた、山のなかを走っているらしいのです。
自動車がカーブを切るたびに、小林君のからだは、トランクのなかでゴロゴロところがり、どこかをうちつけるので、もうとても、がまんができないと思いましたが、そのうちに、やっと速度がにぶくなり、自動車はピッタリと、とまりました。腕時計の夜光の針を見ますと、もう七時に近いのでした。外は、まっ暗な夜になっているのでしょう。
自動車がユラユラとゆれて、だれかがおりていったようです。小林君は、トランクのふたをそっともちあげて、外をのぞきました。まっ暗です。そして、すがすがしい木の葉のにおいが吹きこんできました。やっぱり山のなかなのでしょう。
敵に見つかっては、たいへんですから、用心に用心をして、ふたを大きくひらき、あたりを見まわしました。
それから、そっとトランクを出て、暗やみをさいわいに、地の上をはうようにして、自動車のよこにまわり、なかをのぞいて見ますと、魔法博士も少年も運転手も、だれもいないことがわかりました。三人が、どこかへ、黄金のトラをかくしにいったのに、ちがいありません。
そこは、深い山のなかでした。自動車のヘッドライトが消してあるので、あたりはしんのやみです。
三人が、まだ、そのへんにいるのではないかと、やみをすかして見ましたが、なんのけはいもありません。
ふと気がつくと、むこうのほうに、人だまのような赤い火が、ボーっと見えていました。気味がわるいけれども、勇気をふるって近づいてみますと、それは小さな山小屋で、石油ランプのあかりが、窓のしょうじに、うつっているのでした。
あかりがついているからには、人間がすんでいるのだろうと、小林君はその小屋の前に立って、板の戸を、コツコツとたたきながら、声をかけました。
「おじさん、ちょっと、ここをあけてください。」
すると、ゴホンゴホンと、せきの音がして、「だれじゃ。」といいながら、ひとりのじいさんが、戸を開きました。
それは、もう六十ちかい、ひげむじゃのじいさんでした。木こりか炭焼きなのでしょう。
「ぼく、友だちと、はぐれてしまって、道がわからなくなったんです。ここは、いったい、どこですか?」
「ここかね、ここは西多摩郡のはずれの山のなかだよ。なだかい鍾乳洞の近くだ。昼間はバスも通るところだよ。」
その鍾乳洞のことは、小林君もきいていました。よく学生がおおぜいで、探検にいくところです。岩山にほら穴があって、そのなかは、八方に枝道が、わかれている、あの地底の迷路なのです。
「さては、魔法博士たちは、その迷路のなかへ、黄金のトラをかくしにいったんだな。」
小林君は、じいさんに、鍾乳洞への道をきいて、暗やみのなかを、そのほうへ、たどっていきました。けわしい坂道を三百メートルものぼると、やみの中に、やみよりも黒い大きな岩穴が、ポッカリと、口をひらいていました。鍾乳洞の入口です。そっとのぞいて見ると、ずっとおくのほうに、懐中電灯のひかりが、チロチロと動いていました。
「たしかに、そうだ。しかし、魔法博士たちが帰ってしまっても、ぼくひとりでは、迷路にまよって出られなくなるかもしれない。そうだ。つぎの日曜日に、いろいろな道具を用意して、団員たちと、鍾乳洞探検旅行にくることにしよう。そして、みんなのちからで、黄金のトラのかくし場所を、みつけ出すことにしよう。」
小林君は、そう心にきめました。