仮面の恐怖王

3話 怪自動車

2,103字 約4分 2018年1月15日 公開

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「ノロちゃん、あいつのあとを尾行しよう。さあ、来たまえ。」

 井上君がノロちゃんの手をひっぱって、鉄仮面のあとを追いました。

 鉄の仮面は目も口もふさがれているように見えますが、鉄板のあわせめに細いすきまがあって、そこから外がのぞけるのでしょう。そうでなければ、鉄仮面があんなにはやく歩けるはずがありません。

 それにしても、じつに異様なできごとでした。ロウ人形とばかり思っていた鉄仮面が、いきなり歩きだしたのです。むろん人形ではなくて、生きた人間にちがいありません。

 鉄仮面は、ふたりが尾行しているとも知らず、通路をグングン歩いていきましたが、ヒョイと立ちどまって、いっぽうの壁をおしますと、そこに秘密のドアがあって、鉄仮面はすいこまれるように中へはいっていきました。

 二少年も、すぐそこへいって、ドアをおしますと、しまりを忘れたらしくスーッとひらきましたので、ふたりとも中へはいりました。

 うすぐらい細い通路があります。一本道なので、そのまま歩いていきますと、ロウ人形館のよこての裏口のようなところへでました。

 外はもう夕ぐれどきでした。むこうに不忍池がひろがっています。うしろには電車通りのネオンがひかっていました。

 見ると、すぐむこうに一台の黒い自動車がとまっています。鉄仮面はマントをひるがえして、そこにかけつけ、自動車の後部席へとびこみ、パタンとドアをしめました。

 すると、それがあいずだったように、車はすぐに走りだし、むこうに遠ざかっていって、やがて夕やみの中にとけこむように、見えなくなってしまいました。

 あいにく、そのへんに、ほかに自動車はなく、二少年は怪人のあとを追うことができませんでした。

 それにしても、なんというへんてこなことが、おこったものでしょう。ロウ人形館の人形が、とつぜん動きだし、館の外に待たせてあった自動車にのって、どことも知れず逃げだしてしまったのです。

 二少年は、あまりのふしぎさに、しばらくは、ぼんやりと、そこに立ちつくしていましたが、やがて気を取りなおすと、このことを中曾夫人に知らせるために、正面の入口へといそぐのでした。

 ふたりはキップ売場からはいって、廊下にあるさっきのドアをノックしました。

「おはいりなさい。」

 中から中曾夫人の声がこたえました。

 二少年はドアをひらいて、中にはいりました。

 そこは夫人の事務室らしく、まんなかに大きなデスクがあり、その上に、いろいろな書類がつみかさねてあります。夫人がこしかけているうしろには大きな本だながあって、西洋の本や日本の本がぎっしりつまっています。

「ああ、さっきのぼうやたちですか。ひどくあわてているじゃありませんか。」

 明治時代の洋装をして、帽子をかぶったまま、中曾夫人はいすから立って、二少年のほうへ近寄ってきました。

「鉄仮面が逃げだしたんです。」

「裏口から出て、自動車にのって、どっかへいってしまいました。」

「え、なんですって?」

 夫人は、びっくりしたように、聞きかえします。

「あのロウ人形の鉄仮面が逃げたのです。」

 それを聞くと、夫人は笑いだしました。

「あなたがた、ゆめでも見たのですか。ロウ人形が歩きだすなんて、そんなばかなことがあるもんですか。」

「いいえ、ほんとうです。うそだと思うなら、鉄仮面の場面を見てください。あそこには牢番が残っているばかりです。」

「よろしい。では、見にいきましょう。あなたがたも、いっしょに来てください。」

 夫人はそういって、さきにたって部屋の外へ出ると、グングンそのほうへ歩いていきました。二少年もそのあとにしたがいます。

 いろいろな場面をとおり過ぎて、鉄仮面の場面にたどりつきました。

「やっぱり、あなたがた、ゆめでも見たのでしょう。鉄仮面は、あそこにいるじゃありませんか。」

 少年たちは「あっ。」とおどろきました。

 夫人のいうとおり、鉄仮面はいつのまにか、ちゃんと、そこへもどっていたではありませんか。もう黒マントはぬいで、どこかへかくしてしまったらしく、もとのとおりの姿です。

「ふしぎだなあ、ゆめじゃありませんよ。ぼくたちふたりが、この目で見たんです。自動車にのって逃げてしまった鉄仮面が、どうして、ここへもどったのでしょう。ぼくには、なにがなんだか、さっぱり、わけがわかりません。」

 井上君はそういって、しばらく考えていましたが、ふと気がついたように、

「ぼく、あの人形にさわってみてもいいでしょうか。」

「ええ、よろしいとも、ふたりとも、中にはいって、さわってごらんなさい。」

 そこで、井上君とノロちゃんは、木のてすりをまたいで石の牢屋の中にはいり、鉄仮面のそばに寄って、そのからだにさわってみました。

 からだをたたくと、コツコツ音がしました。両手は、たしかに、つめたいロウでできていました。足もよくしらべましたが、やっぱり、ズボンの中には、木のようにかたいものがあるばかりでした。

「へんだなあ。これはたしかに人形です。でも、こいつは、さっき歩いてここから出たのです。そして自動車にのって、逃げていったのです。」

 井上君が、ふしぎでたまらないという顔で、つぶやきました。

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