三太郎の日記 第一

105話 三太郎の日記 3

386字 約1分 2011年8月12日 公開

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 俺の心が隅から隅まで渾沌に滿ちてゐると思つてゐた時には、他人のことがちつとも俺の問題にならなかつた。俺は唯悲しい、内氣な心を以つて俺一人の問題に沈湎してゐた。

 併し俺の心に或確かなものが出來かゝつて來たと感ずると共に、俺は自分で確かだと感ずる點に就いて他人のことが問題になり出して來た。さうして他人のことが氣になる心持は、自分の中に確かだと感ずるものが増加するにつれて大きくなつて來た。俺にとつては、他人のことを氣にするとは自分のことを御留守にすると云ふ意味にはならない。從つて俺は他人のことが氣になることを恥づ可き事だとは思はない。

 嘗て優れたる人は、天下に一人の迷へる者あるは悉く自分の責任だと感じたと聞く。俺も亦此の優れたる人のやうに、凡ての人のことが悉く氣になるやうになりたいと思つてゐる。換言すれば全人類を包容する博大なる同情を持つやうになりたいと思つてゐる。

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