41話 七 病床の傍にて 3
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病人が苦しみ悶えてゐる。併しそれから數尺を隔てた椅子の上には、自分たちが腰をかけて何の苦痛をも感じてゐない。自分は平氣で病人を扇いでやつてゐる。如何に病人の苦痛に同情して手に汗を握つたところで、自分の肉體は病人の苦痛の億分の一をも感ずることが出來ないのである。自分は此五尺の躯の中に閉ぢ込められ、他と絶縁してコンセントレートされてゐる生命の不思議を感ずる。同時に病者と等しく苦痛を感ずることの出來ぬ個體と個體との隔たりに就いて一種の果敢さと寂しさとを感ずる。
苦しんでゐる人を唯見てゐなければならぬ苦しみを何としよう。