三つの宝

2話

1,882字 約4分 2004年1月30日 公開

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黄金(きん)角笛(つのぶえ)」と云う宿屋の酒場。酒場の(すみ)には王子がパンを()じっている。王子のほかにも客が七八人、――これは皆村の農夫らしい。

宿屋の主人 いよいよ王女の御婚礼(ごこんれい)があるそうだね。

第一の農夫 そう云う話だ。なんでも御壻(おむこ)になる人は、黒ん坊の王様だと云うじゃないか?

第二の農夫 しかし王女はあの王様が大嫌(だいきら)いだと云う(うわさ)だぜ。

第一の農夫 嫌いなればお止しなされば()いのに。

主人 ところがその黒ん坊の王様は、三つの宝ものを持っている。第一が千里飛べる長靴(ながぐつ)、第二が鉄さえ切れる(けん)、第三が姿の隠れるマントル、――それを皆献上(けんじょう)すると云うものだから、欲の深いこの国の王様は、王女をやるとおっしゃったのだそうだ。

第二の農夫 御可哀(おかわい)そうなのは王女御一人だな。

第一の農夫 誰か王女をお助け申すものはないだろうか?

主人 いや、いろいろの国の王子の中には、そう云う人もあるそうだが、何分あの黒ん坊の王様にはかなわないから、みんな指を(くわ)えているのだとさ。

第二の農夫 おまけに欲の深い王様は、王女を人に盗まれないように、(りゅう)の番人を置いてあるそうだ。

主人 何、竜じゃない、兵隊だそうだ。

第一の農夫 わたしが魔法(まほう)でも知っていれば、まっ先に御助け申すのだが、――

主人 当り前さ、わたしも魔法を知っていれば、お前さんなどに(まか)せて置きはしない。(一同笑い出す)

王子 (突然一同の中へ飛び出しながら)よし心配するな! きっとわたしが助けて見せる。

一同 (驚いたように)あなたが

王子 そうだ、黒ん坊の王などは何人でも来い。(腕組をしたまま、一同を見まわす)わたしは片っ(ぱし)から退治(たいじ)して見せる。

主人 ですがあの王様には、三つの宝があるそうです。第一には千里飛ぶ長靴、第二には、――

王子 鉄でも切れる剣か? そんな物はわたしも持っている。この長靴を見ろ。この剣を見ろ。この古いマントルを見ろ。黒ん坊の王が持っているのと、寸分(すんぶん)も違わない宝ばかりだ。

一同 (再び驚いたように)その靴が その剣が そのマントルが

主人 (疑わしそうに)しかしその長靴には、穴があいているじゃありませんか?

王子 それは穴があいている。が、穴はあいていても、一飛びに千里飛ばれるのだ。

主人 ほんとうですか?

王子 ((あわれ)むように)お前には(うそ)だと思われるかも知れない。よし、それならば飛んで見せる。入口の戸をあけて置いてくれ。()いか。飛び上ったと思うと見えなくなるぞ。

主人 その前に御勘定(おかんじょう)を頂きましょうか?

王子 何、すぐに帰って来る。土産(みやげ)には何を持って来てやろう。イタリアの柘榴(ざくろ)か、イスパニアの真桑瓜(まくわうり)か、それともずっと遠いアラビアの無花果(いちじく)か?

主人 御土産(おみやげ)ならば何でも結構です。まあ飛んで見せて下さい。

王子 では飛ぶぞ。一、二、三!

王子は勢好(いきおいよ)く飛び上る。が、戸口へも(とど)かない内に、どたりと尻餅(しりもち)をついてしまう。

一同どっと笑い立てる。

主人 こんな事だろうと思ったよ。

第一の農夫 干里どころか、二三間も飛ばなかったぜ。

第二の農夫 何、千里飛んだのさ。一度千里飛んで置いて、また千里飛び返ったから、もとの所へ来てしまったのだろう。

第一の農夫 冗談(じょうだん)じゃない。そんな莫迦(ばか)な事があるものか。

一同大笑いになる。王子はすごすご起き上りながら、酒場の外へ行こうとする。

主人 もしもし御勘定を置いて行って下さい。

王子無言のまま、(かね)を投げる。

第二の農夫 御土産は?

王子 (剣の(つか)へ手をかける)何だと?

第二の農夫 (尻ごみしながら)いえ、何とも云いはしません。(独り(ごと)のように)剣だけは首くらい()れるかも知れない。

主人 (なだめるように)まあ、あなたなどは御年若(おとしわか)なのですから、一先(ひとまず)御父様(おとうさま)の御国へお帰りなさい。いくらあなたが(さわ)いで見たところが、とても黒ん坊の王様にはかないはしません。とかく人間と云う者は、何でも身のほどを忘れないように(つつし)み深くするのが上分別(じょうふんべつ)です。

一同 そうなさい。そうなさい。悪い事は云いはしません。

王子 わたしは何でも、――何でも出来ると思ったのに、(突然涙を落す)お前たちにも()ずかしい(顔を隠しながら)ああ、このまま消えてもしまいたいようだ。

第一の農夫 そのマントルを着て御覧なさい。そうすれば消えるかも知れません。

王子 畜生(ちくしょう)!(じだんだを踏む)よし、いくらでも莫迦(ばか)にしろ。わたしはきっと黒ん坊の王から可哀そうな王女を助けて見せる。長靴は千里飛ばれなかったが、まだ剣もある。マントルも、――(一生懸命に)いや、空手(からて)でも助けて見せる。その時に後悔(こうかい)しないようにしろ。(気違いのように酒場を飛び出してしまう。)

主人 困ったものだ、黒ん坊の王様に殺されなければ()いが、――

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