地球盗難

37話 本館消ゆ

1,546字 約3分 2010年10月30日 公開

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 大隅学士と巨人少年武夫との相談はそれからも続いた。その揚句(あげく)、二人は揃ってシュワルツコッフ博士の前に出て、改めて新しい方針を考えようではないかということに一決した。

 二人が裏山の蔭から再び姿を現して、本館の方へ、ソロソロ歩きだしたときのことであった。突然、目前がパーッと明るくなった。その明るさといったら、サングラスのない望遠鏡で太陽面を(のぞ)いたように、天地が裂けるような物凄い明るさだった。二人はあっと云って両眼を手で(おお)うなり、地面にパッタリ倒れた。一体なにごとが起ったのだろう。

「うー、愕いた、今のは何だったろう」

「ぼ、僕の眼は(つぶ)れたんじゃないでしょうか」

 大隅と武夫は、指先で両眼をしきりともみながら、こわごわ半身を起した。そしてソッと眼を開いてみた。

 あまりの強い閃光のため、網膜はいまだに何だかキラキラとしていて、前方がよくは見えなかった。ポロポロとひっきりなしに涙が出てくるのであった。――そのうちに、大隅の眼が次第に慣れてきた。視力が恢復してきた。しかし彼はそこで腰をぬかさんばかりに愕かなければならなかった。

()ッ、これはどうしたんだろう」

「えッ、先生なにごとが起ったんです」

 武夫はまだ眼がハッキリ見えないらしく、しきりと(まぶた)をこすっていた。

「おお、これは君、大変なことになったぜ。こんなことがあっていいだろうか。今まで向うに建っていたに違いない本館が跡方もなくなっているぜ」

「えッ、本当ですか。ああやっとボンヤリ見えるようになってきた。なるほどなるほどそうですね。たしかに先刻(さっき)までは、あの樹の向うに古城の怪塔のような本館が見えていましたのに」

 二人は声をあわせて、(おどろ)きの声をあげた。

「さあ早く、向うへ行ってみよう」

 一目散に二人は駆けだした。もちろん武夫のコンパスは巨人のコンパスだったから、たちまち大隅を馳けぬけて先頭を切った。

 やがて二人は、だだっ広い広場の前に立った。それは先刻まで本館がたしかに建っていた地所に違いなかった。

「そうだ。ここに違いない。あれ見給え、建物の跡だけが、まるでマグネシウムを燃やしたように真白になっているよ」

「ははあ、よく分りますよ。たしかに本館の跡です。――本館は爆発してしまったのでしょうか」

「うん、爆発したのかもしれないね。待て待て、ことによると、これは……」

 と、大隅はなに思ったものか、急に空を見上げて、両手を(かざ)した。そしてしばらく何かをしきりに探し求めているようであったが、

「ああ武夫君。あれだあれだ。あれを見給え」

「ええ、あれとは……」

 武夫は大隅の(ゆびさ)す方を共に見上げた。

「ホラ、向うに見える白い雲の切れ目のところだよ。妙な恰好なものがピカピカ閃光を放ちながら舞い上ってゆくじゃないか」

「ええ見えます見えます。()ッ、あれは家の形をしていますよ」

「そうだともそうだとも。よく見給え。あれはさっきまでそこに立っていた本館だよ」

「ええッ、あれが本館!」

 よく見れば、なるほど紛れもなく本館にちがいない。あの大きな建物が、一瞬にして天空に舞い上るとは一体なにごとであろうか。

「こいつは全く愕いた。武夫君、あの本館の建物は、それ自身が一つの大きなロケット仕掛になっていたんだよ。なんという恐ろしいことだ。僕もぐずぐずしていれば、今ごろはあんな高いところを飛んでいたのだ。いやこれはなんといっていいか、実に胆をつぶした」

 武夫は大隅の方を見下ろして、しばらくはポカンと口を開いていた。

「ねえ――先生。あの中には、シュワルツコッフとかいう博士がいたんじゃないのですか」

「そうそうシュワルツコッフ博士だ。それから偽のシュワルツコッフ博士もだ。二人のシュワルツコッフ博士が一緒に天上(てんじょう)してしまったのだ。なぜだろう。なぜだろう。僕は気が変になりそうだ」

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