76話 昂奮の嵐
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「なにごとです。そのそうぞうしさは――」
長良川博士は、地下室の階段からとびこんできた生物学会の会員たちをふりかえって、しかりつけた。
「いや、長良川博士」とひとりの会員が一同を代表してこたえた。
「わたしたちは今、決議したところだ。海底超人の研究ぐらい、今日必要にせまられているものはない。そこで一同のさんせいにより、そこにいる海底超人のロロー殿下とやらをもらいにきたのだ。すぐわれわれに渡してくれたまえ。そのかわり、われわれは貴下に最大の名誉を与える。その名誉というのは……」
「いや。待ってください。ロロー殿下を渡せなどとは、とんでもない話です。考えてもわかるではありませんか。ロロー殿下は、実験用の動物ではありません。人格と自由とをもった、りっぱな人類なのですぞ」
長良川博士は、最大の名誉などの好餌につられることなく、おしよせた会員たちの暴挙をいましめるところがあった。
「だがねえ長良川博士。クイーン・メリー号の事件内容といい、そして博士のさっきのお話といい、われわれは一刻もはやく海底超人を研究しておかないと、今にあべこべにわれわれがせめたてられるにちがいない。われわれ人類を救うためには、ひとりのロロー殿下を解剖することぐらいは何のつみでもない。いやぎゃくに全人類より感謝されるにちがいない」
「いやいや、なんといってもだめです。第一、このわたしが、それを承知しません」
「きみはさかんにわれら学究の行動を阻止しようとしている。われわれは、きみにさしずされるおぼえはないのだ。そこをのきたまえ」
先頭に立つ代表会員の言葉に、会員たちはいっそう昂奮し、今や、ロロー殿下の前方に立ちふさがる長良川博士をおしのけても、ロロー殿下を捕らえたいという気持で一ぱいだった。
ロロー殿下は、まるで石像のようにじっと博士のうしろに立っていた。そしてこの場のありさまに、殿下はいよいよこの地をはなれたいと思うにいたった。
そのとき生物学者たちは、ついに長良川博士をおしのけてどっと階段をおり、殿下をぐるっと巻いてしまった。
一大事と、ドン助教授や三千夫少年もとびだしたが、これまた、昂奮しきっている人々のためにはねのけられてしまった。