79話 大団円
読み方を変える
突如ロンドンを襲撃した海底超人の大群は、人類にはとても想像できないくらいなはげしい破壊のあとをのこして、一時間ののちには、どこともなく姿をかきけしてしまった。
市民の損傷は、まだはっきりしたしらべはつかないが、たいへんなものだろうといわれる。建物や交通機関の破壊されたもの、かずをしらない。
しかし何よりも、ロンドン市民にあたえた大きなものは海底超人がまた襲来しはしないかという大きな恐怖心であった。
まったくのところ、海底超人の通過をおしとどめる如何なる武器も方法もなかった。重砲をもっていっても、爆弾をもっていっても、海底超人群はびくともしないのであった。催涙液でさえ、今回襲来の海底超人にはさっぱり役に立たなかった。さっするところ、海底超人は英国の討伐飛行隊よりうけたまえの損害にこりて、こんどは防毒衣をつくって着用していたものらしい。
今やロンドン市民は、すっかり後悔のなみだにくれている。
「海底超人を怒らせたのが悪い。いったいだれが、海底超人をあのように怒らせたのか」
「さあ、それはだれだろうね」
市民は、もうなにを考える力もなくなったというふうに見える。そしてふたりよれば、かれらはかならずこんな会話をはじめるのであった。
「この次、海底超人はいつくるだろうか」
「うん、今夜かも知れないということだ。シムトン博士が側近者にそっともらしたそうだ」
「その話なら、ほかから聞いた。しかしシムトン博士は、あのとき煉瓦の下になって、大けがをしたのではなかったかね」
「そういう話もある。じつは、ぼくは何も知らないんだよ。ただ、今夜、海底超人がまたくるような気がするんだ」
今のところその海底超人はそれっきりロンドンを訪問しない。このごろになって、市民たちはやっと恐怖から少し救われた。
鉄水母のゆくえは、いまだにわからない。したがって長良川博士一行の消息もまた不明である。しかしこういうことは想像ができはしないであろうか。つまり、長良川博士はふたたび、海底大陸へ行っているのである。そして怒り立つ海底超人たちを、誠意をもってなだめているのであると。
博士は、いつだか、こんなことをノートのはしに書き記している。
「海底超人の恐るべき実力にたいしては、とうてい人類はその敵でない。しかし賢明なるロロー殿下の在世されるかぎり、両者の衝突は未然に防止できるだろう。それは両者にとって、幸運なことといわなければならない」
これを読みかえしても、長良川博士がいまいかなる目標にむかって努力をしているか、大体推察できるではないか。
わが人類と海底超人とが、おなじ正義観念の上に立ち、たがいに愛し合って手をにぎれるのは、いつの日のことであろうか。あまり遠い日のことではないであろう。
ああ世紀の驚異! ああ海底大陸!