桃太郎

1話

620字 約1分 1999年1月8日 公開

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 むかし、むかし、大むかし、ある深い山の奥に大きい(もも)の木が一本あった。大きいとだけではいい足りないかも知れない。この桃の枝は雲の上にひろがり、この桃の根は大地(だいち)の底の黄泉(よみ)の国にさえ及んでいた。何でも天地開闢(かいびゃく)(ころ)おい、伊弉諾(いざなぎ)(みこと)黄最津平阪(よもつひらさか)(やっ)つの(いかずち)(しりぞ)けるため、桃の()(つぶて)に打ったという、――その神代(かみよ)の桃の実はこの木の枝になっていたのである。

 この木は世界の夜明以来、一万年に一度花を開き、一万年に一度実をつけていた。花は真紅(しんく)衣蓋(きぬがさ)黄金(おうごん)流蘇(ふさ)を垂らしたようである。実は――実もまた大きいのはいうを待たない。が、それよりも不思議なのはその実は(さね)のあるところに美しい赤児(あかご)を一人ずつ、おのずから(はら)んでいたことである。

 むかし、むかし、大むかし、この木は山谷(やまたに)(おお)った枝に、累々(るいるい)と実を(つづ)ったまま、静かに日の光りに浴していた。一万年に一度結んだ実は一千年の間は地へ落ちない。しかしある寂しい朝、運命は一羽の八咫鴉(やたがらす)になり、さっとその枝へおろして来た。と思うともう赤みのさした、小さい実を一つ(ついば)み落した。実は雲霧(くもきり)の立ち(のぼ)る中に(はる)か下の谷川へ落ちた。谷川は勿論(もちろん)峯々の間に白い水煙(みずけぶり)をなびかせながら、人間のいる国へ流れていたのである。

 この赤児(あかご)(はら)んだ実は深い山の奥を離れた(のち)、どういう人の手に拾われたか?――それはいまさら話すまでもあるまい。谷川の末にはお(ばあ)さんが一人、日本中(にほんじゅう)の子供の知っている通り、柴刈(しばか)りに行ったお(じい)さんの着物か何かを洗っていたのである。……

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