夜釣の怪

1話 夜釣の怪

880字 約2分 2008年10月23日 公開

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 私の祖父(じじい)(つり)所好(すき)でして、よく、王子(おうじ)の扇屋の主人や、千住(せんじゅ)の女郎屋の主人なぞと一緒に(つり)に行きました。

 これもその女郎屋の主人と、夜釣に行った時の事で御座(ござ)います。

 川がありまして、土堤(どて)が二三ヶ所、処々(ところどころ)崩れているんだそうで御座(ござ)います。

 其処(そこ)へこう陣取りまして、五六(けん)離れた(ところ)に、その女郎屋の主人が居る。矢張(やは)り同じように釣棹(つりざお)を沢山やって、角行燈(かくあんどう)をつけてたそうです。

 祖父(じじい)(つり)をしていると、川の音がガバガバとしたんです。

 それから、何だろうかと思っていると、(やが)てその女郎屋の主人が、釣棹(つりざお)悉皆(すっかり)(まと)めて、祖父(じじい)背後(うしろ)へやって来たそうです。それで、「もう早く帰ろう。」というんだそうです。

「今(ようや)く釣れて来たものを、これから? 帰るのは惜しいじゃないか。」と言ったが、何でも帰ろうというものですから、自分も一緒に帰って来たそうです。

 途中で、「()うしたんだ。」と言ったが、()うしても話さなかったそうです。その内千住の通りへ出ました。千住の通りへ出て来てから、急に明るくなったものですから、始めてその主人が話したそうです。

 つまり「(つり)をしていると、水底(みずぞこ)から、ずっと深く、(おぼ)ろに三尺ほどの大きさで、顔が見えて、馬のような顔でもあり、女のような顔でもあった。」と云うのです。

 それから、気味が悪いなと思いながら、依然(やっぱり)(つり)をしていると、それが、一度消えてなくなってしまって、今度は判然(はっきり)と水の上へ現われたそうです。

 それが、その妙な口を開いて笑ったそうです。余程気味が悪かったそうです。

 それから、この釣棹(つりざお)を寄せて、一緒にして、その水の中をガバガバと()(まわ)したんだそうです。

 その音がつまり、私の祖父(じじい)の耳に聞えたんです。それから、その女郎屋の主人は、祖父(じじい)(ところ)(むか)いに来たんです。

 (うち)へ帰ってからその主人は、三月(みつき)ほど(わずら)いました。(わずら)ったなり死んでしまいました。

 夜釣に行くくらいだからそう憶病者ではなかったのです。水の中も()()わしたくらいなのですけれど、千住へ来るまでは怖くって口も利けなかったと言ってたそうです。

 それから私の祖父(じじい)(つり)()しました。大変好きだったのですが()してしまいました。

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