怪人と少年探偵

26話 一人二役

1,685字 約3分 2016年6月30日 公開

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 中村警部にばけた怪人は、応接室にはいると、いちどは、いすにこしかけましたが、あんないした書生が「ちょっと、お待ちください」といって、出ていってしまうと、なにを思ったのか、すっと立ちあがって、ろうかへ出ていきました。

 そして、うすぐらいろうかのすみに、身をかくすと、ポケットから、ぐにゃぐにゃしたビニールの仮面をとりだして、あたまから、すっぽりとかぶりました。れいの人形仮面です。

 それから、せびろの上着をぬぐと、くるっと、うらがえしにして、また、それを着ました。うらも、おもてと同じように、できている、変装用の上着なのです。しかも、そのうらがわは、赤のひといろ、まるで道化師のようなまっかな上着でした。

 そこへ、ろうかのむこうから、この家の主人の野村さんが、和服すがたでゆったりと、歩いてきました。みち子ちゃんが、とりもどせたので、すっかり安心しているのです。

 それをみると、人形怪人は、ろうかのすみから野村さんの前に、ぬーっと、まっかなすがたを、あらわしました。

「あっ、きみはだれだっ」

 野村さんが、びっくりして、どなりつけました。

「世間では、おれのことを人形怪人といっている。いうまでもなく、くれないの宝冠を、もらいにきたのだ」

 たしかに人形の顔をもった怪物です。野村さんは、そいつが、はやくも、この家にあらわれた、すばやさに、おどろいてしまいました。

「中村さん、くせものです。はやくきてください」

 すぐよこの応接室にいるはずの中村警部に、大声で、よびかけました。

 ところが、その中村警部が、じつは、にせもので、仮面をかぶって、ここへあらわれているのですから、いくらよんでも、くるはずはありません。

 怪人と野村さんとは、ろうかのまんなかで、むかいあって、つったっていました。

 じりっ、じりっと、怪人が、こちらへ近づいてきます。それにつれて、野村さんは、だんだん、あとずさりをしていくのです。

 ふたりの間に、応接室のドアがあります。やがて、怪人はそのドアのまえに、たどりつきました。

 さっと、身をひるがえして、ドアを開き、応接室の中へ、とびこんでいきました。

「やっこさん、警部さんがいるとも知らず、応接室へはいっていったぞ。いまに、ひどいめにあうだろう」

 野村さんは、そう思って、しばらく、耳をすまして、待っていましたが、なにごともおこりません。応接室の中は、しーんと、しずまりかえっています。

 野村さんは、ふしぎに思って、おずおずとドアに近づき、そっと、ドアを開いてみました。

 すると、正面のいすに、中村警部らしい、せびろの人が、こしかけているのが見えました。ほかには、だれもいません。

「中村さんですか、わたし野村です」

と、まず、あいさつをしておいて、

「いま、ここへ、あいつが、とびこんできたはずですが……」

「あいつとは、だれですか」

「人形の顔をもって、まっかな服をきたやつです。くれないの宝冠を、もらいにきたといいました」

「人形怪人ですか」

「そうです。じぶんで、そう名のりました」

「おかしいですね。ここへはだれも、はいってきませんでしたよ」

 にせの中村警部は、なにくわぬ顔で、答えました。

 そのときです。とつぜん、へやのどこかから、きみのわるい笑い声がひびいてきました。

「うふふふ……、おれはここにいるよ。魔法をつかっているから、きみたちの目には、見えないのだ。くれないの宝冠は、きっと、ちょうだいするからね」

 天井から、聞こえてくるようでもあります。ゆか下からひびいてくるようでもあります。とんと、方角がわかりませんが、へやの中にはちがいないのです。しかし、怪人のすがたは、どこにも見えません。

「その宝冠というのは、どこにおいてあるのですか」

 にせの中村警部が、たずねました。

「わたしの書斎(しょさい)の金庫の中です」

「そこへ行ってみましょう。あいつは魔法つかいみたいなやつですから、金庫なんか、わけなくあけるでしょう。ひょっとしたら、もうぬすまれているかもしれませんよ」

 中村警部のことばに、野村さんは青くなってしまいました。すぐ警部をあんないして書斎へ行ってみました。

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