2話 心のゆくところ(一幕)(2)
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わしはこの力づよい霊に一人で向おう
おそれなさるな、「父」はわれわれと共にいて下さる
聖なる殉教者たち。罪なき幼児たちも
また甲鎧をつけてひざまずく東方の聖人たちも
死にて三日の後よみがえりたまいし「彼」も
また、ありとあらゆる天使の群も
(子供は長椅子の上のメリイの側に跪き両腕を彼女にかける)
むすめよ、天使と聖徒たちを呼びなさい
子供
花嫁さん、あたしと一しょにおいで
そしてもっと愉快な人たちを見るのよ
しろい腕のヌアラ、鳥の姿のアンガス
さかまく波のフアックラ、それから
西を治めているフィンラと
心のゆきたがるあの人たちの国があります
そこでは美しいものに落潮もなく、滅びるものに昇潮も来ない
そこでは智慧が歓びで、「時」が無限の歌なの
あたしがお前に接吻すると世界は消えてゆく
ショオン
そのまぼろしから醒めて――ふさいでおいで
お前の眼と耳を
ハアト
彼女は眼で見、耳で聞かなければならぬ
彼女の霊の選択のみがいま彼女を救うことが出来るのだ
むすめよ、わしの方に来て、わしのそばに立っておいで
この家とこの家に於けるお前のつとめを考えておくれ
子供
ここにいてあたしと一緒においで、花嫁さん
お前があの人のいうことを聞けば、お前もほかの人たちと同じようになるよ
子供をうみ、料理をし、乳をかきし
バタや鶏や玉子のことで喧嘩をし
やがてしまいには、年をとって口やかましくなり
あすこにうずくまって顫えながら墓を待つようになるよ
ハアト
むすめよ、わしは天への道をお前に教えている
子供
あたしはお前を連れて行って上げるわ、花嫁さん
誰も年をとったり狡猾になったりしない
誰も年をとったり信心ぶかくなったり真面目になったりしない
誰も年をとったり口やかましくなったりしないところへ
そして親切な言葉が人を捕虜にしないところへ
まばたきするとき人の心に飛んで来る
考えごとでもあたしたちはすぐその通りにするのよ
ハアト
十字架の上のお方の愛する御名によって
わしは命令する、メリイ・ブルイン、わしの方においで
子供
お前の心の名によって、あたしは、お前を止める
ハアト
十字架像を取りのけたから
わしが弱いのだ、わしの力がないのだ
もう一度ここへ持って来よう
マアチン (彼にすがりついて)
いけません
ブリヂット
わたしたちを捨てていらしってはいけません
ハアト
おお、わしを放してくれ、取り返しがつかなくなる前に
こんな事にしたのはみんなわしの罪なのだ
(そとに歌の声)
子供
あの人たちの歌がきこえるよ「おいで、花嫁さん
おいで、森と水と青い光へ」とうたっている
メリイ
わたしあなたと一緒にゆく
ハアト
駄目か、おお
子供 (戸口に立って)
お前にまつわる人間の希望は捨てておしまい
風に乗り、波の上をはしり
山の上でおどるあたしたちは
夜あけの露よりもっと身が軽いのだから
メリイ
どうぞ、一しょに連れてって下さい
ショオン
愛するひと、わたしはお前を止めておく
わたしは言葉ばかりではない、お前を抑えるこの腕がある
あらゆるフェヤリイのむれがどんな事をしようと
この腕からお前を放すことは出来まい
メリイ
愛する顔、愛する声
子供
おいで、花嫁さん
メリイ
わたしはいつもあの人たちの世界が好きだった――それでも――それでも
子供
しろい鳥、しろい鳥、あたしと一緒においで、小さい鳥
メリイ
わたしを呼んでいる
子供
あたしと一しょにおいで、小さい鳥
(遠くで踊っている大勢の姿が森に現われる)
メリイ
歌と踊りがきこえる
ショオン
わたしのところにいておくれ
メリイ
わたしはいたいと思うの――それでも――それでも
子供
おいで、金の冠毛の、小さい鳥
メリイ (ごく低い声で)
それでも――
子供
おいで、銀の足の、小さい鳥
(メリイ・ブルイン死ぬ、子供出てゆく)
ショオン
死んでしまった
ブリヂット
その影から離れておしまい、体も魂ももうないのだよ
お前が抱いているのは吹き寄せた木の葉か
彼女の姿に変っている秦皮の樹の幹かもしれない
ハアト
悪い霊はこうして彼等の餌を奪ってゆく
殆ど神の御手の中からさえ
日ごとに彼等の力は強くなり
男も女も古い道を離れてゆく、慢りの心が来て瘠せた拳で心の戸を叩くとき
(家の外に踊っている人たちの姿が見える、そして白い鳥も交っているかも知れない、大勢のうたう歌がきこえる)
日の門から風が吹く
さびしい心の人に風がふく
さびしい心の人が枯れる
そのときどこかでフェヤリイが踊る
しろい足を輪に踏み
しろい手を空に振って
老人もうつくしく
かしこいものもたのしく物いう国があると
笑いささやきうたう風をフェヤリイは聞く
クラネの蘆がいう
風がわらいささやき歌うとき
さびしい心の人が枯れる
――幕――