2話 時計屋敷の秘密(2)
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から井戸の中
穴の中は、どこからともなく光線が流れこんで来て、うすぐらいが、ものの見わけはついた。
「ここにあるんだ、から井戸は……」
八木が立止って指した。なるほどそこはすこし壁がひっこんでいて、から井戸らしいものがあった。少年たちは、おそるおそる中をのぞいたり、聞き耳をたてたりした。
「中はまっくらで、何も見えない」
「何の音もしてないね。地獄の穴みたいだ」
「いや、地獄なら鬼や亡者がわいわいさわいでいるから、にぎやかなんだろ」
「そうじゃないよ、地獄といっても、いろいろ種類があるなかに、無限地獄というのは、底がない、つまりずっと深いのだ。そして一度落ちると出てこられない。あたりは、しーンとしている。このから井戸は、無限地獄によく似ているよ」
「まあ、そんな話はどうでもいい、こういうものを発見した以上は、ぼくたちはこの井戸を下りていって、中を探偵しようじゃないか」
「うん、それがいい」
「よし、やるか。やるなら、下へ綱を下ろそう。その綱の端を、どこかしっかりしたところへ結びつける必要がある。ああ、これがいい、ここに鉄の棒が出ているから」
その鉄の棒は、塀をつくるときに、骨組としていれたものであったらしい。それに少年たちが持ってきた綱を結びつけ、それから綱をおそるおそる井戸の中へたらした。
「下へついたか」
「うん、まだまだ。……あっ、今、綱の端が下についたらしい、ずいぶん深いね。十五メートルぐらいある」
「深い井戸だなあ」
「さあ、誰が先に下りるか」
「よし、ぼくが下りる」
そういったのは八木だった。彼は探偵長だったから、自分が一番はじめに下りるのがあたり前だと思った。
「大丈夫かい、入る前に、よく中を見た方がいいんだが、懐中電灯を紐にぶら下げて、中を見ようか」
「いや、そんなことをしたら、悪いやつに見つかるかもしれないよ。どうせ下りるなら、くらがり井戸をそっと下りて行く方がいいと思う」
八木はそういった。
「よし、君の好きなようにしたがいい、そのかわり、もし危険を感じたら、この綱をゆすぶるんだよ。それが信号さ、SOSの危険信号さ。するとぼくたち四人は力をあわせて、すぐこの綱を引張りあげるからね、君はしっかり綱につかまっているんだよ」
「うん、分ったよ、それじゃ頼むよ、では、ぼくは井戸の中へはいってみるよ」
八木少年は、もうかくごをきめて、綱を握り、身体をまかせた。しずかに、そろそろと綱を伝わって下りていく。
ひえびえと、しめった井戸の冷たさが、八木のくびのあたりを襲った。ますます暗い、五メートル、十メートルと下りていくにつれて心細さがわく。
しかしもう決心したことだから、途中でもって、「この綱をひき上げてくれ」などと弱音があげられたものではない。八木少年は、自分の心をはげましながら、なおもするすると、から井戸を下りていった。
「あッ」
いきなりあたりがうす明るくなった。それとほとんど同時に、八木の足は下についた。
さあ、ここはどんなところかと、八木少年は、すばやく身構えをして、ぐるっと四方八方をにらみまわした。そこは一坪ばかりの円形の穴倉になっていた。そこから一方へトンネルがつづいていた。
(どこへつづいているトンネルだろうか)
分らない、その奥のことは。
ガラス天井
八木少年は、すかしてみたけれど、奥はほの明るいだけで、はっきりしたものの形は見えない。
(あの明るさは、どこからさしこんでいる明るさだろうか、あそこまで行けば、もっとこのトンネルの中のことが分るかもしれない)
そう思った八木は、とことことトンネルを歩きだした。
行きついてみると、その明るい場所は、トンネルの曲りかどになっていた。明りは右手からさしこんでいる。その右手をのぞきこむと、扉があった。
その扉は、さびた鉄の扉だった。
ハンドルがついていたので、それをにぎって、扉をあけようと、いろいろやってみた。しかし扉はびくともしなかった。さびついているのかもしれない。
(この扉があくと、きっと、おもしろいことが分るんだろうが、ざんねん……)
そのときであった。八木の立っているところが、急に光がかげったように暗くなった。
「おや」
と、八木は上へ仰向いた、光は天井からさしていたので、それがどうして暗くなったのかと上を見たのだ。
「おお、あれは何だ……」
八木少年の頭上五メートルばかりのところに、あついガラスをはめこんだ細長い天井があった。そのガラス天井は、よごれてくもっていたが、そのガラス天井の上を、黒い楕円形のものがゆっくりと動いているのであった。
「ふしぎなものを見つけた……」
おそろしいことはおそろしいが、すばらしい発見だ。
なおもよく見ていると、その黒い楕円は二つあって、一方が動いているときは、他方はじっとしている。そしてたがいちがいに動く、その二つの楕円全体が、もっと大きい円形のかげで包まれている。
「あッ、そうか。ガラス天上の上を、人間がそっと歩いているんだ」
八木は、その謎をといた。
「しかし、あれはいったい誰だろうか」
ガラス天井を破って、上へあがって、あれが何者であるか、顔を見たいと思ったが、天井を破ることはできない。どうしたものかと考えこんでいるとき、どこからか、異様なうなり声を聞いた。それは猛獣が遠くで吠えているようであった。わわわンわわわンとトンネルへひびいた。
「なんだろう」
八木は猛獣がこのトンネルへどこからかはいりこんだのではないかと思った。それならたいへんである。彼はもと来た方へどんどん駆けだした。
やっと、から井戸の下までもどりついた。上から綱がたれている。八木はその綱をにぎると、左右へはげしくゆりうごかした。
上では、これを危険信号とさとって、すぐさま八木を綱ごと上へ引張りあげてくれるはずの約束だった。
ところが、綱はしずかに左右にゆれているだけで、引張りあげられるようすはなかった。
「どうしたんだろう」
八木の心臓はとまりそうになった。
見上げると、から井戸の上はぼうと明るい。友人たちが、そこからのぞいていれば、その顔が見えなければならないのであった。ところが、誰の顔も見えない。
八木は不安になって、下から上へ声をかけた。声はわわわンと上へ伝わっていったが、仲間の顔はいつまでたっても出ない。
「へんだなあ。上じゃ、どうかしたんだろうか。どこへいったんだろうか」
八木は、この上は一刻もこんなところに待っていられないと思った。なにがなんでも、この深さ十五メートルの綱をよじのぼって、から井戸の上へ出なくてはならないと思った。しかし十五メートルも高いところをうまくのぼれるかしらん。
八木は綱を見つめた。
「えいッ」
彼は綱にとびついた。
と彼はどすんと尻餅をついた。いやというほど椎骨をうった。それと共に大きな音がして、上から綱がどしゃどしゃと落ちて来て、彼の上にのしかかった。
せっかくの頼みに思う綱が、どうしたわけか、上の方ではずれて、落ちて来たのだ。さあたいへん。もうここから井戸を出ることができなくなった。彼は困りきって、うらめしそうに井戸を見上げた。そのときであった。井戸の上に、うす青い鬼火が二つ、何に狂うか、からみ合いつつおどっていた。八木少年は「うん」と呻って、気絶した。
怪音
井戸の外で、八木少年を待っていた四人の少年探偵は、いったいどうしたのであろうか。それを語るには、すこし以前にかえらなくてはならない。
「どうしたんだろう、八木君は、おそいじゃないか」
「もう引返してこなければならないのに、へんだねえ。呼んでみようか」
「うん、呼んでみよう」
そこで六条、五井、四本、二宮の四人が、井戸の中に頭をさしいれて、
「八木君、早くかえっておいでよ」
と、声を合わせて叫んだ。
そのあと、四名の少年は、中から八木の返事がもどって来るかと、耳をすまして聞いていた。するとその返事はなく、そのかわりに、うしろの方、つまりトンネルの入り口の方で、あっはっはっと大声に笑う者があった。それにつづいて、重い金属性の大戸が、がらがらッと引かれるような音がしたのだ。
四少年は顔を見合わせた。
「あの音は、なんだろう」
「時計屋敷の玄関の戸がひらいたんじゃないかしらん」
「笑ったようだね、誰だろう」
「村の衆かもしれない、早く行ってみよう」
「よし、みんな走れ」
どやどやと、四少年はトンネルを逆に走った。そしてやがて、すぐむこうに、トンネルの口を通して、まぶしい日光をあびた外の景色が見えるところまで来たと思ったら、
「あッ」
「うわッ」
と、四少年はめいめいに叫び声をあげて、地上から消えた。
いつの間にできたものか、トンネルの道の一部が、大きな穴になっていたのだ、四少年は重なりあって穴の中に落ちた。
がらがらがらッと、重い金属製の戸が引かれる音を再び耳にした。しかしこんどは、四少年の頭上はるかのところにおいてであった。
「おい、けがをしなかったか」
「ぼくは大丈夫、君はどうだ」
「ぼくは腰の骨をいやというほど打って、涙が出たよ、ぼくたちは、落とし穴へ落ちたんだね」
「そうらしい、やっぱり時計屋敷はすごいところだね」
「早く穴から出ようじゃないか」
「いや、だめだ。あれを見たまえ、大きな鉄の格子戸が穴の上をふさいでいるよ」
さっきは見えなかったが、くらがりにようやくなれた今の目で見上げると、なるほど四本のいうとおり、穴は鉄格子でふさがれていた。
「困ったね。どうしたらいいだろう」
「八木君が助けに来てくれるといいんだが、八木君はどうしたろう」
「さあ、どうしたかなあ、また声を合わせて、呼んでみようか」
「叫ぶのはよしたまえ、こうしてぼくたちが落とし穴に落ちたのも、さっきぼくたちが、あんまり大きな声を出したから、それで落とし穴を用意されたように思うんだ」
五井が、そういった。
「ああ、そうか、で、誰が落とし穴を用意したというの」
「ぼくらの敵だよ」
「時計屋敷の幽霊のことをいっているの」
「幽霊だか何だか知らないけど、とにかく時計屋敷に住んでいる怪しい奴が、ぼくたちの敵さ」
幽霊をはじめから信じない常識家の五井がそういった。
「しようがないね、その敵のため、ぼくたちははじめから捕虜になってしまって……おや、へんだね、足許がゆらいでいるじゃないか」
「あっ、動いている。地震らしい」
「地震じゃないだろう。ぼくたちは、なんか動くものの上に乗っているんだ」
「あ、そうか、どこかへはこばれていくんだな」
その先は、どこへ? 四少年は、たがいにしっかり抱きあって自分たちの運命を待っていた。
かびくさい室
その動くものは、たしかに大きな動力で動いているらしかった。
ごっとんごっとんと、重いひびきが地底からひびいてくる。
そのうちに、足の下が急に傾いた。ざらざらと土砂が一方へ走る。
「しっかり、気をつけろ」
と、五井が叫んだが、そのときには、足の下は急角度に傾き、四少年はずるずると滑ってからだの中心を失った。
「あッ、落ちる」
どすんと投げだされた。次々に投げだされた少年たちだった。びっくりして、呼吸がとまった。が、気がついてみると、あたりは今までのような半くらがりではなく、昼間の光がどこからか、さしこんでいた。そして、そこは板の間だったではないか。
少年たちは、次々に起きあがった、腕をさすっているのは二宮、腰をおさえて、顔をしかめているのは六条、頭をしきりに振っているのは四本、平気な顔は五井だった。
「これはどうしても、時計屋敷の中だね、表からはいらないで、へんなはいり方をしたものだ」
五井が、いった。
そのとおりだった。妙なところから、地下を経て送りこまれたのだ。これも時計屋敷の最初の主人公ヤリウスの秘密の設計なのであろうか。
あとから考えると、四少年が、こんな裏口の道から時計屋敷の中へはいりこんだことは、むしろ幸運であった。というのは、この時計屋敷の正面からはいりこむことは、たいへん困難なことであった上に、危険がいくつも待っていたのだ。
裏口の道にも危険な仕掛が用意されてあった。しかし今ではそれがもう役にたたない。仕掛が故障となっているためだった。だから四少年はまず無事のうちに、屋敷内に送り込まれたのである。もっとも、少年たちはそういう事情について全く気がついていなかった。
「奥へ行ってみよう」
「ちょっと待った」と四本がとめた。
「このまま進むことは危険だ。そこでロープでもって、ぼくたちの身体をしばっておいた方がいいと思う。つまりロック・クライミング――岩のぼりのときと同じように、もし一人が危険におちいったら、あとの者がロープをたよりに、助けあうのだ。そうすれば、とつぜん落とし穴へ落ち込むようなことはなくなるだろうと思う」
この四本の考えは、もっともだったので、他の少年たちも賛成して、たがいの身体を、ロープでしばることになった。
先頭は五井、次が六条、それから二宮、しんがりが四本だった。そしておたがいを結ぶロープの長さは三メートルとした。そして、危いと思われる場所へかかったときには、その間隔で展開することとし、別に危険がなさそうなところでは、普通に、寄りそって進むことにした。
こうして、四少年は屋敷の奥へ向かって前進をはじめた。
「たしかに、この屋敷の建て方は、一風かわっているね、間取も、奇妙だ」
四本が、あたりを見まわして、感じたことをもらした。
「気味がわるいね」
と、他の少年たちも相づちをうった。
「西洋建築は、普通は、扉で仕切られるようになった部屋の集りで、その部屋の外には、通路として廊下がついている。ところが、この時計屋敷の間取りをみると、そういう扉式の仕切がすくない。原則としてカーテンで仕切ってある。カーテンをひらけば、どの部屋も廊下も、みんな一つのものになってしまう。これはヨーロッパでも、暑い方の国が採用している古風な建築法だよ」
四本は、おもしろいことをいい出した。
「するとヤリウスという人は、ヨーロッパの暑い方の国の人の血をひいているのかい」
二宮が、感心のていで、口を出す。
「そうだ、多分ポルトガル人かイスパニア人の血を受けているのかも知れない」と四本はまじめな顔つきをした。
「ところが、あそこなんか、襖がついている。奥には障子のはいっているところもある。これはきっと、この屋敷を左東左平が買ったあとで、手入れしたものらしいね」
「なるほど、イスパニア式では、日本人は住みにくくてしかたがなかったんだろう」
五井が、うなずいて、いった。
「だから、これからの探険では、今いったことを頭において、よく注意をはらっていくのがいいと思うね。そして左東左平が手をつけたところは、まず、安全だと思っていいし、ヤリウスがやったままの部屋などに対して、十分注意したほうがいいと思うね」
四本は、さすがに目のつけどころがよかった。
時計塔への道
「それでは、今日の目標第一は、時計塔として、塔の頂上まであがってみようじゃないか」
五井は、一同の顔を見まわした。
「ああ、行こう」
少年たちは、武者ぶるいした。
「すると、塔へあがる階段を見つけるんだ。行こうぜ、いいかい」
「いいとも」
前進を開始した。
かびくさい部屋をいくつか通った。
色のさめたカーテンに手をかけると、紙のようにベリベリとさけた。そして頭上からどっと何十年の埃が落ちて来た。少年たちは、そのたびに息がつまった。
そのうちに、大きな部屋に出たと思ったら、そのむこうに階段がみえた。螺旋形に曲った広い階段で、その真中には赤いジュウタンがしいてあった。そのジュウタンのふちは黒であった。
「ああ、あれだ、時計塔へのぼる階段は――」
少年たちは階段の下へかけつけた。
「気をつけてのぼるんだぜ、ちゃんと間隔をとって登ろう」
そこで四少年は、ロープの間隔をおいて、五井から順番に階段をのぼりはじめた。
やがて五井が、階段を中二階までのぼり切った。そのとき、しんがり四本が、階段の第一段に足をかけた。
この階段は、まず異状がなかった。
次は、中二階から二階へあがる階段だ。これは今までの半分位の短い階段だった。先頭を五井がのぼる。
がたん。
大きな音がして、「あっ」と五井の叫び、五井の身体は、階段の中ほどに、とつぜん開いた穴の中へもんどりうって消えた。
「あっ、しまった」
六条が前にのめる。
二宮が、うわッといって悲鳴をあげる。
「うぬッ」と、しんがり四本が顔を真赤にして、そこへ伏せる。「みんな、その位置を動くな」
幸いにも、五井は救いだされた。他の三名が、早く身体を伏せたからよかったのだ。
「ああ、ひやっとした。いったいこの屋敷には、落とし穴がいくらあるんだろう」
五井は、落し穴からひっぱり上げられると、にこにこ笑いながらいった。彼は、ようやくこの種の冒険になれて、もう大しておどろかなくなったらしい。
他の少年にも、危険とたたかう自信ができたようだ。このようなやり方で、少年たちは階段を一つ一つ征服していった。
階段は上になるほど狭くなり、そして粗末になった。もうジュウタンなんか見られなかった。板ばりに塵埃や木の葉がたまり放しであった。だがそこにも落とし穴が二つも仕掛けてあった。
「なるべく階段の端を通った方がいいようだ、まん中を歩くと、落とし穴の仕掛が働くらしい」
四本は、早くも階段の秘密を見ぬいた。
いよいよ時計塔の中へ、先頭の五井は足をふみこんだ。階段はいよいよ狭くなり、人がひとりやっと通れるくらいだ、そして天井は高いが、室内はまっくらであった。懐中電灯の光をたよりに、あがっていくよりほかなかった。
その光の中に、複雑な機械が、照らしだされた。今はもう死んだように動かなくなったこの時計屋敷の大時計の機械らしい。少年たちは、今こそ古い秘密と向かいあったのだ。
高い天井
「みんな、心をしっかりもっているんだよ」
先頭にすすむ五井が、うしろの連中に、最後の注意をあたえた。
「うん、大丈夫だよ」
「心配するな」
「ほんとに、おちついて、しっかりしてくれよ、どんなお化けが出たって、こわがってはだめだよ」
「こわがるくらいなら、ここまで来やしないよ」
「そうだ、そうだ」
みんな、いせいのいいことをいう。しかしみんなの声は、気のせいか、すこしふるえをおびていた。
五井が合図に、綱をひいて、それからむこうを向いて、せまい階段をのぼりだした。なにが、この時計台の上に待っているだろうか。
四少年の影法師が大きく壁にゆらぐ、みんなの足音が、気味わるく反響する。
ふいに、頭の上にばたばたと音がして、こっちへとびついて来たものがある。
「あッ」
「出たぞ」
大きな鷲のような影が、壁にうつった。
「コウモリだ。心配するな」
一番下にいる四本が、声をはげましていった。
「なんだ、コウモリか」
五井が持っていた竹の杖をぴゅうぴゅうふりまわす。すると、さわぎはさらに大きくなった。コウモリは一ぴきではないらしい、四五ひきはとんでいるようだ。
「コウモリがいるくらいなら、あとは大したものがいないだろう」
四本が、そういった。
「ほんと、きっと、外に何にもいないんだね」
四本の前の二宮が、ふりしぼったような声でたずねた。
「まあ、多分そうだろう。しかし五井君の方を注意していた方がいいよ」
「ああ、そうだ」
二宮の足は重いらしく、四本のすぐ前で立ち停りそうな足どりである。
「上まで来たよ、何にも出てこないや」
五井の声が、上の方で安心したような響きをつたえる。
「えッ、何にも出てこないか、ふーん」
二宮はほっとして、階段に腰を下ろしてしまった。すると四本がそばへよって来た。
「おい二宮君、このいきおいで、早く上まであがってしまおうよ。のぼりたまえ」
「え。いいじゃないか、上には何にもないと、五井君がいっているもの」
「じゃあ、君はここにいたまえ、ぼくは上までのぼる、ロープはといてしまうからね」
「う、待った。ロープをといちゃいけないよ、ぼくも上へのぼる」
四人はついに上までのぼった。
そこは、時計の機械のまうえになっていて、二メートル平方ほどの板の間になっている。上を見上げると、煙突の内側のようになって、まだ五六メートルの空間が少年たちの頭上にあった。電灯をその方へさしつけてみたが、天井のあることと、そのまん中あたりに、鎧でもぶら下げるためにつけてあるのか、大きな鈎が一つ見える。その他ははっきり見えない。
「あそこまでのぼってみるのが本当なんだけれど、どうする」
五井が、頭の上をさしていった。
「ぜひ、みたいものだ、しかし、下から長いはしごを持って来る必要があるね」
六条が、そういった。
「ぼくは、時計台の天井は調べる必要はないと思う。だって、あの上は建物の外へ出るだけだからね。それよりも、時計の機械を調べたいね。なぜ、そして、どうして、この時計は停ってしまったのか、それを知りたいね」
四本が、こういって、反対の説をもちだした。
「時計のことよりも、この屋敷へはいって行方不明になった北岸さんなんかの安否を調べるのが第一の目的なんだから、やっぱり時計台の天井までのぼって、そのへんに何か隠れ穴でもないか、調べた方がいいよ」
五井は、六条が同意したので、あくまで天井を調べたいといいはった。
「じゃあ、手分けをしてやればいいよ。君たち二人は天井を調べ、ぼくと二宮君は時計の機械を調べる」
「さんせい、ぼくは時計の方だ」
二宮が叫んだ。
そこで四人は、二手に分れることになったが、まだロープをとくところまでいかない前に、とつぜん意外なことが起こった。
「あ、地震らしいぞ」
「うん、これは大きな地震だ」
「あ、こんなところにいては、あぶないね」
がたがたと、四少年のいる板の間は大きくゆれだした。天井からは、土のようなものがばらばら落ちて来た。時計の金具が、ぎしぎしきしむ。四少年は、たがいに抱きあって、ゆれがおさまるのを待とうとしたが、そのとき板の間がめりめりと音をたてて、ぐらりと傾いた。
あっという間に、四少年は、傾いた板の間からすべり落ちて、下へ墜落していった。さっきはちゃんとしていた階段が方々ではずれていたので、少年たちはどこまでも下へ落ちていった。
地震が奇縁