沖縄人の最大欠点

1話 沖縄人の最大欠点

1,397字 約3分 2021年4月25日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

 沖縄人の最大欠点は人種が違うということでもない。言語が違うという事でもない。風俗が違うという事でもない。習慣が違うということでもない。沖縄人の最大欠点は恩を忘れ(やす)いという事である。沖縄人はとかく恩を忘れ易い人民だという評を耳にする事があるが、これはどうしても弁解し切れない大事実だと思う。自分も時々こういう傾向を持っている事を自覚して慚愧(ざんき)に堪えない事がある。思うにこれは数百年来の境遇が(しか)らしめたのであろう。沖縄に於ては古来主権者の更迭(こうてつ)が頻繁であったために、生存せんがためには一日も早く旧主人の恩を忘れて新主人の徳を(しょう)するのが気がきいているという事になったのである。加之(しかのみならず)、久しく日支両帝国の間に介在していたので、自然二股膏薬(ふたまたこうやく)主義を取らなければならないようになったのである。「(あが)(てだ)(をが)みゆる、(さが)(てだ)(をが)まぬ」という沖縄の俚諺(りげん)()くこの辺の消息をもたらしている。実に沖縄人に取っては沖縄で何人(なんぴと)が君臨しても、支那で何人が君臨しても、かまわなかったのである。明、清の代り目に当って支那に使した沖縄の使節の如き、清帝と明帝とに奉る二通りの上表文を持参して行ったとの事である。不断でも支那に行く沖縄の使節は琉球国王の印を()した白紙を用意していて、いざ鎌倉という時にどちらにも融通のきくようにしたとの事である。この印を捺した白紙の事を「空道(こうだう)」といい伝えている。これをきいてある人は君はどこからそういう史料を探してきたか、何か記録にでも書いてあるのかと揚足(あげあし)を取るかも知れぬ。しかし記録に載せるのも物にこそよれ、沖縄人如何(いか)に愚なりといえども、こういう一国の運命にも関するような政治上の秘密を記録などに遺しておくような事はしない。これは古来琉球政府の記録や上表文などを書いていた久米村人間で秘密に話されていた事である。私は同じ事を知花朝章(ちばなちょうしょう)氏から聞いたことがある。とにかく、昔の沖縄の立場としてはこういう事はありそうな事である。「食を与ふる者は我が主也(ものくゐすどわーおしゆう)」という俚諺もこういう所から来たのであろう。沖縄人は生存せんがためには、いやいやながら娼妓(しょうぎ)主義を奉じなければならなかったのである。実にこういう存在こそは悲惨なる存在というべきものであろう。この御都合主義はいつしか沖縄人の第二の天性となって深くその潜在意識に潜んでいる。これはた沖縄人の欠点中の最大なるものではあるまいか。世にこういう種類の人ほど恐しい者はない、彼らは自分らの利益のためには友も売る、師も売る、場合によっては国も売る、こういう所に志士の出ないのは無理もない。沖縄の近代史に赤穂義士的の記事の一頁だに見えない理由もこれで()くわかる。しかしこれは沖縄人のみの罪でもないという事を知らなければならぬ。とにかく現代に於ては沖縄人にして第一この大欠点をうめあわす事が出来ないとしたら、沖縄人は市民としても人類としても極々(ごくごく)つまらない者である。(しか)らばこの大欠点を如何にして補ったらよかろうか。これ沖縄教育家の研究すべき大問題である。しかしさしあたり必要なる事は人格の高い教育家に沖縄の青年を感化させる事である。陽に忠君愛国を説いて陰に私利を営むような教育家はかえって沖縄人のこの最大欠点を増長させるばかりである。自分は当局者がこの辺の事情を十二分に研究せられんことを切望する。

(明治四十二年二月十一日稿『沖縄新聞』所載、『琉球古今記』所収「空道について」参照)

目次に戻る

感想を書く

目次