ノベリズ
綺堂むかし語り
183字 約1分 2001年10月15日 公開
川越(かわごえ)の喜多院(きたいん)に桜を観る。ひとえはもう盛りを過ぎた。紫衣(しい)の僧は落花の雪を袖に払いつつ行く。境内(けいだい)の掛茶屋にはいって休む。なにか食うものはないかと婆さんにきくと、心太(ところてん)ばかりだと云う。試みに一皿を買えば、あたい八厘。
花をさそう風は梢をさわがして、茶店の軒も葭簀(よしず)も一面に白い。わたしは悠然として心太を啜(すす)る。天海(てんかい)僧正の墓のまえで、わたしは少年の昔にかえった。(明治32・4)
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