綺堂むかし語り

66話 (十)山蛭

252字 約1分 2001年10月15日 公開

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 妙義の山をめぐるあいだに、わたしは山蛭(やまびる)に足を吸われた。いくら洗っても血のあとが消えない。ただ洗っても消えるものでない。水を口にふくんで、所謂(いわゆる)ふくみ水にして、それを手拭か紙に湿(しめ)して拭き取るのが一番いいと、案内者が教えてくれた。

 蛭に吸われた旅の人は、妙義の女郎のふくみ水で洗って貰ったのですと、かれは昔を偲び顔にまた云った。上州一円は明治二十三年から廃娼を実行されているのである。

 雨のように冷たい山霧は妙義の町を掩って、そこが女郎屋の跡だというあたりには、桑の葉が一面に暗くそよいでいた。(大正3・8)

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