地球要塞

3話 地球要塞(3)

7,623字 約15分 2004年7月3日 公開

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 黎明(れいめい)が来た。

 クロクロ島は、いつしか元のとおりに海面に浮かび上っていた。

 潮を含んだそよ風が、通風筒をとおり私の頸筋(くびすじ)(かす)めていく。

 かん、かん。かん、かん。

 軍艦と同じように、時鐘が、冴々(さえざえ)と響きわたる。

(もう五時だ!)

 オルガ姫が、つかつかと近づいて、手提鞄を卓子(テーブル)のうえに置いた。

「これが昨夜中に(あつ)まった録音です」

 人造人間との会話は、何を聞いても、こっちからは返事をする必要のないことであった。返事をしなくても人造人間は、私を高慢ちきな奴だと腹も立てず、また返事をしてやっても、(よろこ)ぶわけではない。私はただ必要なる命令だけを喋ればよかった。

 私は、録音器の入った鞄をもって、階段をのぼっていった。

 島の上に出ると、朝やけの空のもと、静かな海にはうねりもなかった。

 昨夜、この辺に、執拗(しつよう)索敵(さくてき)行動をくりかえした汎米連邦の艦隊は、影も見えなかった。空と海と、そしてクロクロ島だ。原始時代の昔にかえったような、まことに単純な世界の中の一刻であった。戦争もない、資源問題もない。只有るのは、今もいったように、空と海と、そしてクロクロ島だけであった。

 私は、古ぼけた籐椅子(とういす)に、背をもたせかけた。それから、肘掛(ひじかけ)の裏をさぐって、(ボタン)を指先でさぐった。番号の4という釦を押すと、足許の岩がバネ仕掛けの蓋のように、ぽんと開いた。そして下から、西洋の郵便箱のような形をした録音発声器がせりあがってきた。

 私は発声器の後部をひらいて、鞄の中に入れてきた録音ワイヤを投げこんだ。ワイヤの一端を、スプールの一方の穴に止め、そして、蓋を閉じると、発声器は自然に録音を再発声しはじめた。

“――欧弗同盟(おうふつどうめい)側は、一切の戦闘準備を終了した。召集された兵員の数は、二千五百万、地下鉄道網(ちかてつどうもう)は、これらの兵員を配置につけるため、大多忙を極めている”

 これは汎米連邦のワシントン放送であった。

 ちょっと途切れてから、また次の録音が声にかわった。

“――ワイベルト大統領は、戦費の第一次支出として、千九百億(ドル)の支出案に署名をした”

“――欧弗同盟の元首ビスマーク将軍は、昨夜、会議からの帰途、ヒトラー街において、七名の兇漢(きょうかん)に襲撃され、電磁弾(でんじだん)をなげつけられて将軍は重傷を負った。犯人は、その場で逮捕せられたが、彼等は将軍の民族強圧に反対するアラビア人であった。今後、同国内におけるこの種の示威運動は、活溌になるであろうと識者は見ている”

“――汎米連邦における敵国スパイの跳梁(ちょうりょう)は、いよいよ(はなは)だしきものがあり、殊に昨日は、ワシントン市と南米方面とは互いに連絡をもつスパイの通信が受信せられ、警備隊は、これの検挙に出動した。ワシントン市におけるスパイの巣窟(そうくつ)はついに壊滅(かいめつ)し、スパイの大半は捕縛(ほばく)せられ、その一部は、自殺または逃走した。南米方面のスパイに対しては、厳重な包囲陣が敷かれて居り、彼等の検挙はもはや時間の問題である”

 こうした録音は、いずれも汎米連邦側のものばかりであった。

 これに対して、欧弗同盟側では、殆んど、何にも放送していないのが、甚だ奇妙な対照をなしていた。

 只一つ、最後に欧弗同盟側の簡単な放送があった。

“――元首ビスマーク将軍は、今、寝所に入ったばかりである。元首は一昨日以来、ベルリンにおいて閲兵(えっぺい)と議会への臨席とで寸暇もなく活動している。(ちな)みに、ベルリン市には、数年前から一人のアラビア人もいない”

 この放送は、明らかに、ワシントン特電がデマ放送であることを指摘し、反駁(はんばく)しているものであった。その(ほか)のことについては、ベルリン特電は、なにもいっていないし、欧弗同盟のいずこの地点よりも、一つの放送さえなかった。それは、非常にりっぱに統制が保たれているというか、或いは開戦にあたって、作戦の機密を(もら)させまいと努力しているのだというか、とにかく林の如く静かであることが、汎米連邦側にはすこぶる気味のわるいものであった。

 汎米連邦と欧弗同盟国との戦闘は、あと数日を出でないで、開始されるであろうと思われた。

「落下傘が六個、下りてきます! 頭上、千五百メートル付近を、下降中!」

 とつぜん、オルガ姫の声であった。

 私は、空を仰いだ。

 ああ、見える見える。灰色の爆弾のようなものが、ぐんぐん下におちてくる。もっとスピードが速ければ、爆弾と間違えたかもしれない。

 落下傘は、主傘(しゅさん)を開いていない。小さい副傘を、ぽつんぽつんと、開きながら、まだ相当のスピードで落ちてくるのが分った。

 主傘がぱっと、開いたのは、高度二百メートルのところであった。見事に拡がった主傘は無印であった。只、緑の煙が、すーっと後を曳いたので、

「あ、やっぱり、そうか。久慈たちだな」

 と、気がついた。

 落下傘は規則正しく、わがクロクロ島上に落下した。と同時に、主傘はたちまち焔と化し、一瞬に燃え尽きた。久慈たちは、まるで台の上から飛び下りたように、ふんわりと島の上に立った。

   怪力線砲(かいりきせんほう)――壮絶(そうぜつ)燃える六十機

「おお、久慈か。よく、脱出できたね」

「や、ありがとう」

 飛行服に身を固めた久慈は、いそぎ私に近づき感激の握手をした。

「もういけないかと思った。なにしろ、戦友が、ばたりばたりとやられるのだ……でも、集るだけは集って、抵抗した。そして、皆で智慧をしぼって試験中の成層圏飛行機で、とびだしたものだ」

「ほう、成層圏飛行機! それじゃ、たいへん高空へ逃げたというわけだな」

「エスエス一〇三型という奴で、こいつがまた素晴らしい高速を出す試験中の飛行機なんだ。だから、これを追跡できる飛行機は、外にはないというわけだ。――そしてクロクロ島の緯度(いど)経度(けいど)を測って、うまく飛び下りた」

「すると、何者にも、追跡せられていないというのだね」

「そうだ。まず、九割九分まで、大丈夫だ」

「乗ってた飛行機は、どうした」

「ああ、あれか。あれは、操縦者なしで、いまだにどんどん飛行をつづけているだろうよ。そのうち、どこかの海へ墜ちてわからなくなるだろう」

「それはよかった。実は昨日、君のところからの通信以来、このクロクロ島も、すこし安心ならなくなった形だ」

 と、私がいえば、

「そんなことは、ないだろう。これほど高性能をもったクロクロ島が、敵のためにやっつけられてたまるものか」

 久慈も、かつて、このクロクロ島設計集団の一員だったことがある。だから彼は、クロクロ島に対する信仰が(あつ)かった。

「そうか。追跡している者がないと決ったら、まあ、下へ下りて休憩したまえ。食料も豊富だ。酒もある……」

 と、私がいっているとき、オルガ姫の声が、するどく響いた。

「超攻撃機六十機編隊が、北北東より、こっちへ来ます、高度四千五百……」

 私は、それをきいて、どきっとした。久慈の顔を見ると、彼も色を失っている。

「や、やっぱり、後をつけてきやがったか! 畜生!」

「仕方がない。戦闘だ! 手荒なことはしたくないがクロクロ島の秘密を知られては、面倒(めんどう)だ。さあ、君たちいそいで、そこの階段を下りたまえ」

 私は、脱出してきた久慈の一行を、いそいで下に下ろした。

 そして私は、籐椅子をもって、下に下りていった。

「潜水始め、深度十メートル」

 私は、オルガ姫に、命令を伝えた。

 姫はあざやかに、並ぶスイッチを間違いなく入れた。

 掩蓋(えんがい)兼防水扉は、直ちに、閉った。そして深度計の指針は、もう右へ傾き出した。

 壁のテレビジョンの幕面には、すでに、追跡中の超攻撃機編隊が、うつっている。その画面の左右には、しきりに数字が消えては、また現われた。距離と高度とが、忙しく、示されているのであった。

 久慈は、心配げに、私の傍に、ぴったり体をつけていた。

「怪力線砲で、やっつけるだろうね。もう撃ってもいい頃じゃないか。ぐずぐずしていると、間に合わない」

 と、久慈は、やきもきしている。

「いや、まだ早い。こいつらを一挙に墜落させないと、都合がわるいのだ。もし一機でも二機でも残っていると本隊へ連絡してこの戦闘情況を報告するだろうから、それじゃ、こっちの秘密が分ってしまう」

 私は作戦をのべた。

「それは(もっと)もだが、戦闘に時期を失っては、たいへんだぞ」

「もうすこしだ。殿(しんが)りの敵機が、せめてもう二十キロばかり、近くなったときに……」

 といっているうちに、またもオルガ姫の声だ。

「敵の司令機が、無電を打ち始めました」

「えっ、無電を……さては、見つかったか。もう、猶予(ゆうよ)はならん」

 私は、決心すると、オルガ姫を待たずに、配電盤のところへとんでいった。そして、怪力線砲発射の(ボタン)を押したのであった。

 とたんに、機械室のエンジンは、ぐぐッと鳴って、ひどい衝撃をうけた。電灯は、今にも消えそうに光力を失った。

 一秒、二秒、三秒!

「ああ、燃える、燃える、燃える……」

 久慈が、テレビジョンの幕面を指して、歓喜の声を放った。

 同じことを、私は、照準鏡(しょうじゅんきょう)の中に認めていた。

 洋上高く、翼を揃えて襲来した六十機の超攻撃機は、一せいに火焔に包まれてしまったのであった。そして雨のように、煙の筋を引きながら、大空から墜落していくところは言語に絶した壮観だった。

 やがて洋上には、真白な水柱(すいちゅう)奔騰(ほんとう)した。攻撃機が一つ一つ、(なみ)に呑まれてしまったのであった。

「おお、敵機全滅! ばんざーい!」

 久慈たちは双手(もろて)をあげて、凱歌(がいか)をあげた。

 しかし、私は、別に嬉しくも感じなかった。こんなことは、クロクロ島の偉力の一つとして、なんでもないことだ。だが、汎米連邦の軍用機を撃墜したことによってやがて困難な事態が必ず向うからやってくるであろう。それを考えると、私は、(とて)もばんざいを唱える気にはなれなかったのだ。

   別れの(さかずき)――本国からの呼び出し

 クロクロ島にあがる凱歌!

 米連の追撃隊は、わが怪力線砲のため、(ことごと)くやっつけられてしまった。

「祝盃だ、祝盃だ!」

「なんという、すばらしい戦闘だったろうか。ああ、思いだしても、胸がすく!」

 久慈たちは、クロクロ島に備付けの怪力線砲の偉力を、今更(いまさら)のように知って乱舞(らんぶ)のかたちである。

「よかろう。おい、オルガ姫、(なだ)()一本を、倉庫から出してこい」

「はい、はい」

 私は、なおも、島の付近の海と空との一面に、油断なき監視の触手を張りおわってのち、ようやく安心して、皆のところへ戻ってきた。

 せまい機械台のうえが、とり片付けられ、一枚の白い布が敷かれていた。そこへ、オルガ姫が、酒の(びん)をもってきた。

「ああ、灘の生一本か。こんなところで、灘の酒がのめるなんて、夢のようだな」

 皆は、子供のようにうれしそうな顔をして、小さい盃にくみわけられた灘の酒をおしいただいた。

「ばんざーい、クロクロ島!」

 私はいった。

「ばんざい、黒馬博士のために……」

 と、久慈が、音頭をとった。

「ありがとう」

 と私はいって、

「――だが、この盃をもって、皆さんに対し、お別れの盃を兼ねさせていただきたい」

「なんだって」

 久慈が、おどろいて、私の顔をみた。

 私はここで、皆に、説明をしなければならなかった。

「実は、さっき、本国から、至急戻ってくるようにと、命令があったのだ。だから私は、お別れして、いそぎ東京へ戻らなければならない」

「ほんとうかね。われわれをからかっているのではないかね。クロクロ島の主人公が、ここを離れるなんて」

「いや、クロクロ島は、依然としてここにおいておく。久慈君に、後を頼んでおく。もちろん本国から君あてに、辞令が無電で届くことだろうが……」

「ほんとうかね。黒馬博士が、クロクロ島を離れるなんて、そいつはちょっと困ったなあ」

「困るって、なにが……」

「僕には、このクロクロ島が、つかいこなせないと思うのだ。なにしろ、このとおり、複雑な働きをする大潜水艦だからなあ」

「複雑だといっても、殆んどみんな機械が自動式にやってくれるのだから、君は、司令マイクに、命令をふきこむだけでも、かまわないんだよ」

「それはそうかも知れんが、このふかい意味のある西経三十三度、南緯三十一度付近においてクロクロ島本来の使命を達成するには、僕では、(うつわ)が小さすぎる」

 久慈は、いやに謙遜(けんそん)をする。

「ははあ、臆病風(おくびょうかぜ)に吹かれたね」

 と、私がいえば、彼は、

「臆病風? とんでもない。そんな風なんかに吹かれてはいない。しかし、只これだけのりっぱな大潜水艦を、君から拍手をもらうほど、僕にうまく使いこなせるかとそこが心配なんだ。その一方僕は、このクロクロ島を、自分の思うように使ってみたくて、たまらないのだ。臆病風に吹かれているわけじゃない」

 と、久慈は、ぴーんと胸をはっていった。

 私は、うなずいた。久慈なら、たしかに、このクロクロ島をうまく使いこなせるだろう。

 だが、そのとき私は、一つ心配なことを思い出した。

 それは外でもない。昨夜あらわれた怪人X大使のことだった。あのような大胆不敵な曲者に、このクロクロ島を再訪問されては困ってしまう。なにかいい方法はないか。

 私は、しばらく考えた結果、一つのことを思いついた。それは、クロクロ島の入口に、強烈な磁石砲(じしゃくほう)をおくことだ。あのX大使が、入って来ようとすると、この磁石砲の磁場(じば)が自動的に働いて、X大使の身体を、その場に(すく)ませる。そのとき一方から、ヘリウム原子弾を雨霰(あめあられ)のようにとばせて、X大使の身体の組織をばらばらにしてしまう。そうすれば、いかなる怪人X大使であろうと、たいてい参ってしまうであろう。

 私は、磁石砲を入口に据付(すえつ)けるために、貴重な三十分ばかりの時間を(ついや)し、それが終ると、久慈にくわしく注意をして、名残(なごり)惜しくもクロクロ島を出掛けたのであった。

   魚雷潜水艇(ぎょらいせんすいてい)――身動き出来ぬ船室

 私は、あいかわらず、忠実な部下である人造人間のオルガ姫を伴っていた。

 私たちの乗った魚雷型の高速潜水艇は、早や南洋岩礁(がんしょう)の間を縫って、だんだんと、本国に近づきつつある。それは、クロクロ島を出てから、三時間のちのことであった。

 私は、この高速潜水艇が、たいへん気に入っていた。成層圏飛行のように早く目的地へ達しはしないけれど、同じ深度をとおって、一直線に直行できるのは、この高速潜水艇であった。これは、地球の深海なら、どんな深さのところでも通れるし、スピードも、中々はやいから、敵の監視網や水中聴音器などは役に立たない。しかも、飛行機のように、空中から目立たなくていい。

「あと、五十分で、東京港に到着いたします」

 と、オルガ姫が叫ぶ。

 オルガ姫も自分も、この魚雷型潜水艇内に寝たきりである。だから、この潜水艇の胴中が、魚雷をほんのちょっと太くしたぐらいにすぎないことが知れる。

「そうか。まず、誰にも見付からなくて、いい按配(あんばい)だったな」

 と、私は、思わず、生きた人間に話すように、いったことである。三時間、こうして、身動きもならずじっと寝ているのも、退屈なものである。

 オルガ姫は、なにもこたえなかった。そういう主人のことばに対しては、何もこたえる仕掛けにはなっていなかったのである。

 東京で、私を迎えてくれるのは、一体誰であろうか。

 それは、もちろん私を招いた人であるが、その人こそ戦軍総司令官の鬼塚元帥(おにづかげんすい)であったのだ。

 今こそ、一切をここに書くが、私――黒馬博士は、国防上の或る重大使命をおびて、クロクロ島に乗り込み、はるばる例の西経三十三度、南緯三十一度というブラジル沖に派遣されていた者である。その使命が、あからさまにいって、どんなことであったか、それを話せば、どんな人でも、()っといって腰をぬかすことであろうが、残念ながら、まだ書く時期が来ていない。いずれそのうち、だんだんと分ってくることであろう。

 とにかく私は、クロクロ島において、その重大使命の達成に、ようやく手をつけ始めたばかりのところで、とつぜん鬼塚元帥からの招電(しょうでん)に接したのであった。元帥の用向きは、一体なんであろうか。

 それは、尋常一様(じんじょういちよう)のことではあるまい。それだけは、容易に予想できる。もしそうでなければ、折角(せっかく)あのような重大使命をさずけて特派した私を、仕事にかかったばかりのところで、そう簡単に呼び戻すわけがない。

 だが、元帥の胸のうちは、ここでいくら私が考えてみても、分らない。

「東京港へはいります。港内司令所より、第四十三番潜水洞(せんすいどう)へはいれとの命令がありましたから、只今からそちらへはいります」

 オルガ姫が、なんでもやってくれるのだ。私は、早くこの魚雷型潜水艇から出て、美味なあたらしい空気を、ふんだんに肺の奥まで吸いこみたいと思った。

 艇のエンジンは、とつぜん停った。

 ぎいイ、ぎいイ、ぎいイ――と、金属の擦れ合う高い音がきこえる。わが艇は、ついに潜水洞の中につき、今台のうえにのって、ケーブルで曳きあげられているのだ。間もなく、艇は地下プラットホームへつくことであろう。

 空気窓が、ぱかッと音がして開いた。とたんに、待望久しかった新鮮の空気が、どっとはいって来て、下顎(したあご)から顔面をなでて、流れだした。

開扉(かいひ)します」

 オルガ姫が叫んだ。

 外被(がいひ)が開いた。私の目に、プラットホームの灯が、痛いほどしみこんだ。私は、皮帯を外して、外へ出た。そして、しばらくは、柔軟体操をつづけた。身体中の筋肉という筋肉が、鬱血(うっけつ)()っていて、ぎちぎちと鳴るように感じた。

 オルガ姫は、まめまめしく立ち働いている。私の乗ってきた魚雷型潜水艇は、彼女の手によって、艇庫におさめられた。

 この地下プラットホームは、東京港に特に設けられた船舶用の発着所であった。船舶といえば、むかしは、桟橋(さんばし)についたり、沖合に錨をおろしたものであるが、目下わが国では、それを禁じてある。碇泊は、すべて禁止である。

 船舶はすくなくとも、東京港付近まで来ると、いずれも潜水してしまう。そして、潜水洞へ潜りこむように決められてあった。だから、わが国の艦船には、潜水の出来ないものは、一つもなかった。小さい船でも、わが潜水艇のように、潜水設備のあるものが相当多かった。つまり、潜水のできない艦船は、不全だというわけである。

 わが艦船が、こういう潜水式に改められるまでには、十年の歳月と、多大な費用とを要したが、それが完成すると、わが海運力は、世界一堅牢(けんろう)なものとなった。

 近頃、外国でも、そろそろ見習いはじめたようであるが、わが国は、むかしから海国日本の名に恥じず、この進歩的な潜水艦船陣を張り、堂々と世界の海をおさえているのは、まことに愉快なことである。

「おお、黒馬博士、お出迎えにまいりました」

 一人の美しい婦人が、私の前に立って、いんぎんに挨拶した。

「やあ、ご苦労です」

「鬼塚元帥が、たいへんお待ちです。どうぞ、お早くこの自動車(くるま)へ……。申しおくれましたが、(わたし)は、鬼塚元帥の秘書のマリ子でございます」

「やあ、どうも」

 鬼塚元帥も、このように目のさめるような美しい人造人間を使っていられる――と、私は妙なことを感心した。

   毒瓦斯(ガス)――スパイの活躍

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