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横浜伊勢佐木町

山本 周五郎 全1話 801字 2026年8月4日

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1. 横浜伊勢佐木町

 戦前伊勢佐木(いせざき)町へはごくときたま、それこそ二年に一度くらいしか立寄ったことはないが、それもオデオン座へ行くときとか中華料理を食べた帰りなどにただ素通りをする程度であったが、そのたびに「なんて田舎臭い街だ――」と思ったものである。誇張ではない。

 三つの大きな百貨店があり、洒落(しゃれ)た喫茶店のビルがあり、東京からも客の来るオデオン座があるのに、ぜんたいの感じは無性格で、やぼったくて、田舎くさかった。少くともその程度の感想しかもたないくらいに、私は縁がなかったともいえる。戦後の伊勢佐木町は戦前よりさらに無性格でやぼったい上にとらえどころがなくなった。大きな建物をほとんど接収されたし、自動車プールや飛行場などが出来たので、ひところは連合軍将兵の町のようになり(これは横浜市ぜんたいといってもいいだろうが)土産物店と酒場とキャバレーだけが幅をきかして日本人相手の店は端の方へ追いやられてしまった。街上は兵隊ときらびやかな、あるいは見るも無残な姫たちで占められ――それもいいが、その両者ともどこかの田舎から迷い出してきたあんちゃんや令嬢たちで、西部や濠州の牛追いなまりと東北なまりのアメリカ語の氾濫(はんらん)だから、昔のような異国情緒のよさなどはなく、ますますその「やぼったさ」と「田舎くささ」に輪をかけるばかりであった。

 いま伊勢佐木町は復興しつつある。接収された建物も返還されるそうで(現にその一部は実現している)なにがし堂建築用地などという板囲いが多くなった。商店の多くも、日本人の客のために少しずつサービスを変えて来たが、いちど入り込んできた弁天通り趣味は抜けそうもない。復興するにしたがって元の田舎くささがしだいに現れてくるという感じである。六大都市のメイン・ストリートのなかで、このくらいやぼったい無性格な町もないが、またこんなに人情の淳朴(じゅんぼく)なわる賢こさの少い町も珍しいだろうと思う。

(発表誌紙と執筆年月は不明)

横浜伊勢佐木町 — 山本 周五郎 — https://noveliz.cc/n/rbj20c4xpj

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