2話 人造人間の秘密(2)
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私は、どうにかして、圧倒せられまいと、自分の心を叱りつけたが、そのようにはいかなかった。フリッツ大尉の案内により、大仕掛な地下工場のまん中に立ち、呻る廻転機や、響く圧搾槌の音を聞いていると、ドイツ人のもつ科学力に魅せられて、おそろしくなってくるのだ。
私が今、見ている機械は、しきりに原型をうち出している。原型は、普通は、かたい鋼鉄でつくるが、この地下工場では、私の知らない灰色のセメントのような妙な粉末を熔かして固めるのであった。
「どうだね、セン。君の気に入るように、製造工程は進んでいるかね」
フリッツ大尉は、私の気をひいた。
「さあ。おっしゃることが、私には、すこしも分りません」
私は、すばらしい製造工程の進行についてのおどろきを、ひたかくしに、かくしていった。ドイツ技術なればこそである。
夥しい数の原型が、どんどんつくられていく。一体、そんなにたくさんの人造人間を作ってどうするつもりなのであろう。
「おう、セン。こっちへ来たまえ。いよいよ出来あがった製品について、試験が始まる。君は人造人間の出来具合について、遠慮なく、批評をしてくれたまえ」
フリッツ大尉は、そういって、私をエレベーターにのせて、別室へつれて行った。 それは、三階ぐらい上のところにある部屋だった。この地下工場は、どこまで大きいのであろう。
廊下をちょっと歩いたところに、入口があった。大尉は、扉を押して開いた。そして私の背中を、うしろからついた。
私は、全く気をのまれてしまった形だった。なぜといって、扉がひらいての瞬間から、私の眼は、室内に軍隊のように整列しているぴかぴかの人造人間のすばらしい群像に吸いつけられてしまったのだ。
なんというりっぱなモール博士の研究であろう!
それとともに、なんという手際のいいドイツ軍の製造技術であろう!
「さあ、あの台のうえにある金属製の檻の中に入って見物しよう」
大講堂を十個ぐらいうち貫いたようなこの広い試験室の中央には、噴水塔のようなものがあって、上は、金属棒をくみあわせた檻になっていた。そして、その檻の中には、試験官らしいドイツ人が三四人入っていて、机の形をした配電盤の前に立っている。人造人間をうごかすためには、強烈な電波を使うから、電波の侵入をふせぐこのような厳重な檻の中に入って試験をしなければならないのであった。
フリッツ大尉と私とは、最後に、檻の中の人となって、扉を閉じた。
檻の中から、整列している人造人間の部隊を見下ろしたところは、奇観であった。なんだか人造人間の部隊のために、あべこべにわれわれが檻の中に閉じこめられてしまったような錯覚をおこした。それほど、人造人間部隊はいかめしい。
そのとき私は、丁度向こう側に、大きな箱のようなものがおいてあるので、何だろうかと、いぶかった。
「あの箱みたいなものは、何ですか」
と、私は、フリッツ大尉にたずねた。
「おや、お前は、勝手なときに、口をきくんだなあ。あの小屋のことが知りたいのかね。見ていれば、今にわかるよ」
そういい捨てて、フリッツ大尉は、右手をあげた。それは、試験始めの合図であった。一人の技師が、配電盤のうえについているスイッチを、ぱちりと入れ、そして計器の表をみながら、ハンドルをまわした。他の一人が、九千五百、一万……と、しきりに数字を読みあげる。
「右向け、右!」
フリッツ大尉が叫ぶと、もう一人の技士が、配電盤上のタイプライターのキイのように並んだ釦を、ぽんぽんぽんと叩いた。とたんに、人造人間は、一せいに右へ向いた。生きている軍隊よりもあざやかに、まるで、珠算のたまが、一せいに落ちるようであった。
「四列縦隊で、前へ!」
ぽんぽんぽんと、また、別なキイが、技師の手によって、叩かれる。
かつッと、金属製の靴が鳴ったかと思うと、すぐさま四列縦隊が出来、ついで、この縦隊はすッすッすッと、小きざみな足取で歩きだした。生きている兵士の二倍ぐらいの速さである。
「全速、駈け足、おい!」
ひゅーンと、妙な機械的な呻りがしたかと思うと、人造人間縦隊は、私たちの入っている指揮塔のまわりを、まるで、玩具の列車のように、隊伍整然と、そして目がまわるほどの速さでまわりだした。生きている人間が、こんな速さで走ったら、目がまわったうえ、心臓破裂で死んでしまうだろう。
フリッツ大尉は、それに引きつづいて、いろいろな号令をかけた。人造人間は、まるで人間とかわらぬ運動をした。どんな複雑な号令をかけても、配電盤のキイの叩き方によって、ちゃんと別々にうごくのであった。そして人造人間の兵士の行動は、どこまでも正しくあり、そしてどこまでも勇敢であった。
そうであろう、機械人間であるから、死をおそれる神経がないのであるから。
大尉は、ときどき私の顔色をうかがった。だが私は、そしらぬ顔をして、立っていた。大尉の調練は、三十分で終った。
「もういいだろう。モール博士の作った人造人間は、思いの外、すぐれた働きをするものだわい」
大尉は、技師たちに、休めを号令した。そして汗をふいた。私も汗をふいた。全く、博士の研究の偉大なのにはおどろくほかはない。こういう立派な機械の設計図を、まんまとフリッツ大尉の手に渡してしまったことが、たいへん残念であった。私は、深い後悔におちた。
廻らぬ歯車
大尉が、汗をぬぐい終らぬうちに、指揮塔の向こうに見えている箱の横に、ぽっかりと扉が開いて、中から一人の技師が、とびだしてきた。
「フリッツ大尉。これは、どうもへんですぞ」
と、彼は、大きなこえで、どなった。
大尉は、びっくりしたような顔になって、箱の中にひそんでいた技師を、そばによびよせ、
「なにが、へんだ」
と、きいた。
「なにがって、エッキス光線で、今の人造人間の腹の中をみていたのですが、腹の中にあるたくさんの歯車のうちで、ついに一度もまわらなかった歯車が二個ありました。へんじゃありませんか」
技師は、熱心を面にあらわしていった。
「まわらない歯車が二個もあったか。どうしたわけだろう」
と、大尉は私の顔を、じろりと睨んだ。
だが、何を、私が知っているものか。
「あらゆる号令は、かけてみたつもりだが、はて、へんだな」
と、大尉は、なおも解せぬ面持で、広い額を、とんとんと拳で叩いた。
「なぜだろうな、セン。説明したまえ」
「私が、なにを知っているものですか。あの筒の中に、こんなすばらしい設計図が入っていると知ったら、私は、あんなところにぐずぐずしていませんよ」
「ふしぎだ。が、まあ今日のところは、これでいいだろう」
と、フリッツ大尉は、試験の終了を宣したのであった。
私たちは、檻を開いて、外に出たが、そのとき大尉は、私に向い、
「どうだね、セン。君は、捕虜として土木工事場で、まっ黒になって働きたいか、それとも、この工場で、見習技師として、楽に暮したいか」
と、たずねた。
「もちろん、楽な方がいいですなあ」
と、私は即座に答えた。単に、楽を求めたわけではない。私は、見習技師としてでも何としてでも、この工場にとどまりたかったのであった。それには、一つの望みがあった。それは、なんとかして、人造人間の設計図を、うばいかえしたいということだった。
その日から、私は、この地下工場で、働くことになった。フリッツ大尉が、試験の結果、これならば大丈夫、戦場に出して充分役に立つことがわかったので、それからというものは、工場は、全能力をあげて、人造人間の製造にかかったのである。
当時、大尉の計算によると、この工場で、一日のうちに、人造人間を五百人作ることが出来る。十日間頑張ると、五千人の人造人間部隊が出来るから、これをもって、イギリス本土への上陸作戦が、うまくいくにちがいないと考えたのである。しかも、一人の人造人間は生きた人間の兵士の百人に匹敵し、五十万の英兵を迎え討つに充分であるというのだ。
私は、その夜のうちに、すべてを決行しようと、機会のくるのを、待っていた。私は、捕虜の身分であるので、例の藁のうえに寝た。ニーナも捕虜であるから、同じ部屋に寝るのだった。ニーナは、私に向かいいろいろと昼間の出来ごとを質問した。しかし私は、一切、口を緘して、語るのをさけた。ニーナは、ついに腹を立てて、寝てしまった。
午前三時!
ついに、その時刻となった。私は、その時刻こそ、脱出するのに最上の機会だと思って狙っていたのだ。
「ニーナ、お起きよ」
私は、ニーナを、ゆすぶり起した。
ニーナは、びっくりして、藁の中から起きあがった。私が、脱出のことを話すと、ニーナはあまりだしぬけなので、俄かに信じられない顔付だった。
「脱走なんて、そんなこと、出来るの」
「うん、出来るのだ。人造人間を使って、ここを脱がれるんだ」
「ええ、人造人間? そんなこと、出来るのかしら」
信じ切れないニーナを、ひったてるようにして、私は窓を破って、廊下へ出た。もちろん私は、例の黒い筒を、背中にしっかりと背負って、両手は自由にしておいた。
「ドイツ兵に見つかったら、どうなさるの」
ニーナは、心配げに、たずねた。
「柔道で、投げとばすだけだ。柔道のことは、ニーナも知っているだろう」
と、私は、投げの形をして見せた。
「ああ柔道! 知っている、あたし。日本人は、ピストルがなくても、敵とたたかえるのね。まあ、すばらしい」
その足で、私は、フリッツ大尉の部屋へ飛びこんだ。もちろん大尉は、ベッドの中で、ぐうぐういびきをかいて寝ていた。大尉の上衣が、壁にかかっている。私はそのポケットを探した。一束の鍵が、手にさわった。私は狂喜した。それこそ、あの人造人間の指揮塔の扉の鍵だったのである。私はニーナの手をとって、階段づたいに、人造人間のいる三階へ、かけのぼって行った。
ニーナは、その途中で、私に、こんなことをいった。
「なにもかも、お芝居のように、うまくいくのね。あんまり、うまくいきすぎると思うわ。それにしても、フリッツ大尉は、なんというだらしない人でしょう」
ニーナは、あきれている。私とて、じつはこううまくいくとは、思っていなかったのだ。脱出方法のことや、大尉が、無造作にポケットになげこんだ指揮塔の鍵束のことなどは、ちゃんとしらべてあったのだが、それにしても、こううまくいくとは思いがけなかった。廊下にも階段にも、歩哨一人、立っていないのだ。
私たちは、らくに、指揮塔の中に忍びこむことが出来た。
「これからどうなさるの」
「これから、人造人間の背中に、おんぶされて、ここを脱出するのだ」
「まあ、そんなことが、ほんとに出来るかしら」
ニーナは、目を丸くしている。
脱出
「わけなしだ。ニーナ、見ているがいい」
私は、指揮塔の、配電盤のキイを、ぽンぽンぽンと押した。
その次の瞬間、私は人造人間が、がちゃンがちゃンと音をたてて、こっちへ歩いてくるのを予想していた。ところが、そうはいかなかった。場内に並んだ人造人間は、林のように、しずまっている。
「へんだなあ」
「それごらんなさい。人造人間は、うごかないじゃありませんか」
「そんなはずはないんだが……今押した人造人間は、故障かもしれない。他の人造人間をうごかしてみよう」
私は、別なキイを押した。ところが、やはり駄目だった。人造人間は、うごかない。私は、焦ってきた。そこで、私は最後の試みとして、あらゆるキイを押して、そこに並んでいる人造人間のすべてをうごかすように試みた。すると、ふしぎにも、最後にキイを押した三人の人造人間が列をはなれて、指揮塔内に入ってきた。私は、涙が出るほど、うれしかった。
「ニーナ、やっぱり、うごいたよ。三人うごいてくれれば、こっちの思う壷だ。さあ君は、この人造人間の背中におのりよ。私は、こっちのに、のる」
私は、よろこび勇んで、ニーナを、人造人間の背中に、のせてやった。ニーナは、妙な顔をして、
「人造人間を、三人も呼んで、どうなさるの。あたしたち二人をのせて脱出するのだったら、二人でたくさんじゃない。一人、あまるわ」
「そうじゃないんだ。どうしても、三人の人造人間が必要なんだ。のこりの一人の人造人間がたいへん大事な役をするんだ。見ていなさい、今すぐに分る」
私は、こういって、第二番目の人造人間の背中にのった。そして背中のうえから、腕をのばして、キイをポンと押した。
すると、第三番目の人造人間が、つかつかと、配電盤の前へ歩いていって、すぐその前まで私が占めていた位置についた。そしてその人造人間が、私に代って、キイを、ぽンぽンぽンと押したのであった。
「ニーナ、走り出すから、しっかりつかまえて………」
言下に、私たちを背負った二人の人造人間は、うごきだした。そして指揮塔の出入口から出ていった。
「出発から、破壊から、疾走から、それから国境越えまで、なにからなにまで、私が計画したとおり、配電盤の前に残っているあの人造人間が、順序正しくやってくれるんだ。まあ、見ているがいい」
私は、得意だった。ニーナと私をのせた人造人間は、肩を並べて、すッすッすッと歩きだした。そして階段をもう一階、上にのぼると、たいへんな力を出して、扉を押したおし、外へ出た。そこには一条のりっぱな地下道がついていた。人造人間は、そのうえを、走りだした。だんだんスピードがあがってきて、風がひゅうひゅう鳴りだした。
「ニーナ、おちないように、人造人間の背中に、しがみついているんだ!」
「ええ」
人造人間は、砲弾のように走る。
あっという間に、衛兵所の前を通りすぎた。そして地下道から外に出た。草の匂いが、ぷうんとした。二人の人造人間は、なおも肩を並べ、風を切って走りいく。
(どうも、あんまりうまくいきすぎたようだ)
私は、人造人間を利用したこの脱出計画が、あまりにうまくいきすぎて、うれしくもあったが、意外な感がしないでもなかった。それにしても、衛兵が発砲するでもなし、誰かが後を追いかけてくるでもなし、全く意外なことだらけであった。
一時間ばかりすると、夜が白々と明けていった。心も感情もない人造人間に背負われて、どんどん広野を逃げていく私たちの恰好は、全くすさまじいものに見えた。とにかく、この勢いで、あと一時間ばかり走らなければならないが、途中、ベルギー兵かフランス兵にとがめられたとすると、人造人間にのった私たちは、化物かスパイ扱いにされて、誤解をまねくおそれがある。そんなことも、新しい心配になって、私の頭をつかれさせた。
ニーナも、死人のように、青ざめた顔をしている。彼女は、大きな眼をあいて、不安げに、しきりに、あたりを見まわしている。
そのニーナが、とつぜん私をよんだ。
「ねえ、私たちの前を、へんな自動車が走って行くわよ。髯もじゃの紳士が、のっていて、反射鏡で、しきりに、こっちをみているわ」
「えっ、そんな奴が、前にいたか」
私は、うしろばかり注意していたので、この先駆者には、気がつかなかったのだった。なるほど、前方五百メートルのところを、たしかに、私たちと同じようなスピードで、街道を走って行く無蓋自動車があった。
その自動車のうえから、とつぜん、ぴかぴかと、眩しい光線が、閃いた。なにかの信号のように。
すると、どうしたわけか、私たちののっていた人造人間のスピードが、急におちて、おやへんだと思っているうちに、ぴったりと、道路のうえに、停ってしまった。
「こんなはずはない。私は、国境附近に達するまで、人造人間を、全速力で走りつづけさせることにしてきたのに……」
と、私は、人造人間が、急に停ってしまったことに、大不審をもった。
「おい、千吉じゃないか」
太い声が、私をよんだ。
私は、前を見た。いつの間にか、例の怪自動車が、私たちの前に停っていた。そして、車上からこっちを向いている髯もじゃの顔!
「おお、モール博士じゃありませんか。これはおどろいた」
ふしぎな再会
モール博士と、行きあったのだ。ふしぎなところで、一緒になったものだ。
「おどろいたのは、わしの方のことだ。君はいつの間に、あの黒い筒の中に入れておいた設計図を使って、こんな人造人間を作りあげたのかね」
博士は、車上から、こわい顔をして、私たちを睨みつけた。
そういわれると、私は一言もない。私は、もう仕方がないと思ったので、こうなったわけを手短かに、博士に報告した。
博士は、私の一語一語に、顔を赤くして、ドイツ軍を呪っていた。しかし、私に対しては、思いの外、不快に思っていないらしい。
「博士。でも、へんですな」
「なにが、へんだ」
「でも、私は、この人造人間が、私たちを国境附近へつくまでは、全速力で走るように、ちゃんと器械を合わして来たのに、ここで停ってしまったのは、どういうわけでしょうか」
「なんだ、そんなことか。それは造作ないことさ。ふふふふ」
博士は、奇妙なこえをあげて、笑った。
「造作ないとは?」
「つまり、わしが停めたのさ。発明者であるわしには、あの設計によるA型人造人間を停めることなんか、わけはないのだ。幸いに、その器械をつんだ自動車が、あそこにああして、こわれずに、ちゃんとしているんだ」
と、博士は得意そうにいった。
なるほど、これは道理である。この人造人間がA型という名のついているものであることは始めてしったが、そのA型人造人間の発明者であるモール博士が、それを停めたり、また走らせたりする器械をもっているのは、ふしぎなことではない。
「そんなことは、なんでもないが、ベン隧道の下の、ドイツ軍の秘密の地下工場で、早速このようなりっぱな実物をつくりあげてしまったことは、腹も立つが、なんとおどろくべき、製造力だろう」
と、さすがの博士も、舌をまいた。
「博士はこれから、どうされるのですか」
「わしかね。わしは、やはり国境を越えて、フランスに入るつもりだ。君にあって、たいへんうれしいが、あと、ハンスのことが気がかりだが、仕方があるまい。では、君たち、わしの自動車に、一緒にのったがいい」
博士は、車上から手招きをした。
ニーナは、さっきから、道傍に身体をなげだして、死んだようになって、疲れを休めていたが、これを聞くと、むくむくと起きあがって、博士の自動車の方へ、よろめき歩いて行った。私も、ニーナにならうより外はない。しかし、この人造人間を、このままにしておくのは、たいへん勿体ないことだと思ったので、
「博士、この人造人間は、どうしますか」
と、たずねた。
博士は、車上にかがんで、受話器を耳にあてて、何かの音を聞いていたが、このとき髯もじゃの顔をあげ、
「この人造人間は、ここで片づけていく」
「片づけていくとは……」
「なあに、壊していくのさ」
「そんなことが出来るのですか」
「出来るとも。わしが設計したんだもの。しかもこのA型人造人間も、ハンスの持っているB型人造人間も、じつはどっちも、不完全なんだから、こわすのは、わけなしだ」
博士は、妙なことをいいだした。
「不完全ですって。なにが、不完全なんですか」
「そのわけは、ちょっと簡単にいえない。が、要するに、ちょっとやれば、すぐ壊れてしまうようなものは、不完全の証拠だ。わしは……」
といいかけた博士は、そこで急にことばをきって、熱心に受話器から流れ出す音をきき始めた。
「おお、そうか。いよいよやって来たか」
「やって来た? なにがやって来たのです」
「人造人間部隊の襲来だ。おそらく、お前たちが出発してすぐその後から、ドイツ軍がくりだしたものだろう。おお、見える見える。もうあそこまで来た。畜生、わしのものを失敬して、わしを攻めるとは、けしからんドイツ軍だ。だが、今に見ておれ」
博士は、かずかずの呪いのことばを、地平線のあなたに投げつけた。はるかうしろの、もうすっかり明け放れた地平線上には、いつの間に追いついたのか、三四百人の人造人間部隊が、肩を揃え、顔を並べて、大河の流れのように、こっちへ押しよせてくるのであった。
「あっ、撃った」
「えっ」
「人造人間の腕に仕掛けてある機銃が、一せいにこっちに向いて、撃ちだしたぞ」
だだだン、だだだン、だだだン。
ものすごい銃声だ。銃弾は、ひゅーン、ひゅーンと、呻りごえをあげて、私たちのまわりにとんで来る。私は、博士にうながされて、いそいで自動車上の人となった。
「見ていろ、千吉。今あの人造人間部隊を、一時にぶっつぶしてみるから」
博士は、しわがれたこえで叫ぶと、車上の器械のスイッチを入れて、釦をぽンぽンと押した。
「あれ、見よ!」
轟然たる音が、人造人間部隊の中から、起った。私は、今までに、こんな痛快な光景をみたことがない。一瞬のうちに、人造人間部隊は、ばらばらになって、空中に飛び散ってしまったのである。その有様は、飛行機の空中分解と、あまりかわらなかったが、しかし、これは、何百というA型人造人間が、一せいに分解して飛び散ったのであるから、その壮観な光景といったら、なんといってあらわしたがいいか、見当がつかないほどだ。
ドイツ軍が、人造人間で追撃させたことも、博士のために、無駄に終った。
大悪人だ