26話 おばけの正体 第二六項 狐狸の拍子木
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余がむかし越後にいて、ある田舎の妖怪屋敷を探検したことがある。その家は大なる茅屋にして、裏には深林と墓場とがあるのみだ。越後は雪の多く積もる所で、三、四カ月の間は屋上に雪が絶えぬありさまである。その雪のようやく消えんとするころ、毎夜、屋後に拍子木をうつ音がするとの大評判になり、ここに来たり集まるもの、みなその声を聞いて恐れて帰り、これは狸の拍子木であるとの公評であった。つまり、越後の深林中に住する狸の所業ということにきまった。余も一度探検に出かけその音を聞いたが、狸の仕業でないと思い、よくその方角、位置を聞き定め、翌日再びここに至り、屋後を探り見るに、大いなる竹の筒(筆立てのごときもの)が雨滴の落つる所に立ちおり、これに屋根の雪がとけて落つるときに、その一滴一滴がこの筒の中に落ち込み、ために発したる音なることが分かった。昼間は世間の騒がしさに奪われて聞こえぬけれど、夜間になるとその音がよく響くのである。これを狸の拍子木などとは、実に滑稽ではないか。