61話 おばけの正体 第六一項 顔を振っている幽霊
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某小学教員が己の経験談として話されたことがある。場所は美濃国高須郡内の山間にして、夜中旅行の出来事である。途中、火葬場を通りかかりしに、青色の火が燃え上がっておる。これは身体を焼いておるのであると知った。だんだん近づくに従い、その火を隔てて若き婦人の顔が見えておる。かかる深夜に婦人のおるべきはずはない。その顔が青色に見ゆるのみならず、しきりに左右にふりつつある。このときこそ真に幽霊の現れたるものと思い、大声をあげて、「汝、なんの怪ぞ」とどなりたれば、幽霊と見し若き婦人が答えて、「ワシは明日嫁に行くものである。今日歯を染めんとするも、ドウしても鉄漿が付かぬ。しかるに、死人を焼きたる火にて鉄漿をとかせばよく染まると聞いて、昼は人目をはばかり、夜中ここに来たって歯を染めているのである」と申したので、ようやく化け物でないことが分かり安心したと当人の直話。