おばけの正体

61話 おばけの正体 第六一項 顔を振っている幽霊

379字 約1分 2016年6月5日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

 某小学教員が己の経験談として話されたことがある。場所は美濃(みの)国高須郡内の山間にして、夜中旅行の出来事である。途中、火葬場を通りかかりしに、青色の火が燃え上がっておる。これは身体を焼いておるのであると知った。だんだん近づくに従い、その火を隔てて若き婦人の顔が見えておる。かかる深夜に婦人のおるべきはずはない。その顔が青色に見ゆるのみならず、しきりに左右にふりつつある。このときこそ真に幽霊の現れたるものと思い、大声をあげて、「(なんじ)、なんの怪ぞ」とどなりたれば、幽霊と見し若き婦人が答えて、「ワシは明日嫁に行くものである。今日歯を染めんとするも、ドウしても鉄漿(おはぐろ)が付かぬ。しかるに、死人を焼きたる火にて鉄漿をとかせばよく染まると聞いて、昼は人目をはばかり、夜中ここに来たって歯を染めているのである」と申したので、ようやく化け物でないことが分かり安心したと当人の直話(じきわ)

目次に戻る

目次