おばけの正体

91話 おばけの正体 第九一項 衄血の話

481字 約1分 2016年6月5日 公開

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 わが国の民間にては、人の死したる場合に、その親戚もしくは縁故あるもの来たって死体に触るるときには、必ず鼻孔より出血するを見る。これは、死体に霊あってしかるのであるかのごとくに信じておるものが多い。この実例は水中にて溺死(できし)せるものに毎度ある出来事なれば、余が地方巡遊中にもたびたびこれについて質問を受けることがある。よって、ここに一言しておこうと思う。余も実際、溺死せる死体について実視せしことあるが、これは決して親類に対してのみ出血するのではない。いかなる他人にても、もし来たってその死体を動かすならば、同様の現象を見るはずなるも、溺死者のごときは水中より引き上げ、そのまま死体を平臥(へいが)せしめ、親類の者の来たるまでは決して他人をして触れしめず、いよいよ親類の来たったときに、急にその体を動かし、あるいは位置を移さしむるものである。かかる動揺を与うるために衄血(じくけつ)の流出を見るのである。すべて溺死の場合のごときは、鼻孔内の血管が破裂して内部に出血しておるから、たとい他人でも、その体を動かせば必ず出血するわけである。これを親類に限ると思うは、愚俗の迷信と申さねばならぬ。

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