紅玉

1話 紅玉(1)

5,251字 約11分 2009年5月27日 公開

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時―――現代、初冬。

場所――府下郊外の原野。

人物――画工。侍女(烏の仮装したる)。貴夫人。老紳士。少紳士。小児五人。――別に、三羽の烏(侍女と同じ扮装)。

小児一 やあ、停車場(ステエション)の方の、遠くの方から、あんなものが()つて来たぜ。

小児二 何だい/\。

小児三 あゝ、(おおき)なものを背負(しょ)つて、蹌踉々々(よろよろ)来るねえ。

小児四 影法師まで、ぶら/\して居るよ。

小児五 重いんだらうか。

小児一 何だ、引越(ひっこし)かなあ。

小児二 構ふもんか、何だつて。

小児三 御覧よ、(せな)よりか高い、障子見たやうなものを背負(しょ)つてるから、(たこ)歩行(ある)いて来るやうだ。

小児四 糸をつけて揚げる真似エして()らう。

小児五 遣れ/\、おもしろい。

凧を持つたのは凧を上げ、独楽(こま)を持ちたるは独楽を廻す。手にものなき一人(いちにん)、一方に向ひ、凧の糸を手繰(たぐ)る真似して笑ふ。

画工 (枠張(わくばり)のまゝ、絹地(きぬじ)()を、やけに(ひも)からげにして、薄汚(うすよご)れたる背広の背に負ひ、初冬(はつふゆ)、枯野の夕日影にて、あか/\と()(さみ)しき顔。()へる足どりにて登場)……落第々々、大落第(おおらくだい)。(ぶらつく体を(ステッキ)突掛(つっか)くる(さま)疲切(つかれき)つたる樵夫(きこり)の如し。しばらくして、叫ぶ)畜生(ちくしょう)(ざま)を見やがれ。

声に驚き、()()ける玩具(おもちゃ)の、手許(てもと)に近づきたるを見て、糸を手繰りたる小児(こども)()(ひら)いて素知(そし)らぬ顔す。

画工、()の事には心付(こころづ)かず、立停(たちど)まりて嬉戯(きぎ)する小児等(しょうにら)を《みまわ》す。

よく遊んでるな、あゝ、(うらやま)しい。()うだ。(みんな)、面白いか。

小児等(こどもら)、彼の様子を見て忍笑(しのびわらい)す。中に、糸を手繰りたる一人(いちにん)

小児三 あゝ、面白かつたの。

画工 ((くだ)をまく口吻(くちぶり))何、面白かつた。面白かつたは不可(いか)んな。今の若さに。……小児(こども)をつかまへて、今の若さも変だ。(笑ふ)はゝゝは、面白かつたは心細い。過去(すぎさ)つた事のやうで(なさけ)ない。面白いと云へ。面白がれ、面白がれ。()ほ其の上に面白く成れ。むゝ、()うだ。

小児三 だつて、(にい)さん(おこ)るだらう。

画工 (解し得ず)俺が(おこ)る、何を……何を俺が怒るんだ。生命(いのち)がけで、()いて文部省の展覧会で、(へえ)つくばつて、()いか、洋服の(ひざ)を膨らまして膝行(いざ)つてな、いゝ図ぢやないぜ、審査所のお玄関で頓首(とんしゅ)再拝(さいはい)(つかまつ)つた奴を、紙鉄砲(かみでっぽう)で、ポンと()ねられて、ぎやふんとまゐつた。それでさへ怒り得ないで、悄々(すごすご)(つえ)(すが)つて背負(しょ)つて帰る男ぢやないか。景気よく馬肉(けとばし)(あお)つた酒なら、跳ねも、いきりもしようけれど、胃のわるい(ところ)へ、げつそりと空腹(すきばら)と来て、蕎麦(そば)ともいかない。停車場(ステエション)前で饂飩(うどん)で飲んだ、臓腑(ぞうふ)宛然(さながら)蚯蚓(みみず)のやうな、しツこしのない江戸児擬(えどっこまがい)が、()うして腹なんぞ立て()るものかい。ふん、だらしやない。

()小児(こども)はきよろ/\見て居る。

小児三 何だか知らないけれどね、今、向うから来る兄さんに、糸目をつけて手繰(たぐ)つて居たんだぜ。

画工 何だ、糸を着けて……手繰つたか。いや、怒りやしない。何の真似だい。

小児一 兄さんがね、()うやつてね、ぶら/\来た(ところ)がね。

小児二 遠くから、まるで以て、(たこ)の形に見えたんだもの。

画工 はゝあ、凧か。(背負(しょ)つてる絵を見る)むゝ、其処(そこ)で、(仕形(しかた)しつゝ)と()つて面白がつて居たんだな。(ところ)で、俺が()う近く来たから、怒られやしないかと思つて、其の悪戯(いたずら)()めたんだ。だから、面白かつたと云ふのか。……かつたは(さみ)しい、つまらない。(さかん)に面白がれ、もつと面白がれ。さあ、糸を手繰(たぐ)れ、上げろ、引張れ。俺が、凧に成つて、(あが)つて遣らう。上つて、高い空から、上野の展覧会を見て遣る。京、大阪を見よう。日本中(にっぽんじゅう)を、いや世界を見よう。……さあ、あの()来て(あお)れ、それ、お前は向うで上げるんだ。さあ、遣れ、遣れ。(笑ふ)はゝゝ、面白い。

小児等(こどもら)しばらく逡巡(しゅんじゅん)す。画工の機嫌よげなるを見るより、一人は、画工の(せなか)(いだ)いて、凧を煽る真似す。一人は駈出(かけだ)して距離を取る。其の一人(いちにん)

小児三 やあ、大凧(おおだこ)だい、一人ぢや重い。

小児四 うん、手伝つて遣ら。(と独楽(こま)(ふところ)にして、立並(たちなら)ぶ)――風吹け、や、吹け。山の風吹いて来い。――(同音に(はや)す。)

画工 (あふりたる()の手を離るゝと同時に、大手(おおで)(ひら)いて)()う成りや凧絵だ、提灯屋(ちょうちんや)だ。そりや、しやくるぞ、水()むぞ、べつかつこだ。

小児等(こどもら)の糸を引いて(かけ)るがまゝに、ふら/\と舞台を飛廻(とびまわ)り、やがて、樹根(きのね)に《どう》と成りて、切なき呼吸(いき)つく。

暮色(ぼしょく)到る。

小児三 凧は切れ(ちゃ)つた。

小児一 暗く成つた。――(ちょう)()い。

小児二 又、……あの事をしよう。

其の他 ()らうよ、遣らうよ。――(一同、手はつながず、少しづゝ(あいだ)をおき、くるりと輪に成りて(うた)ふ。)

青山(あおやま)葉山(はやま)羽黒(はぐろ)権現(ごんげん)さん

あとさき言はずに、中はくぼんだ、おかまの(かみ)さん

唄ひつゝ、廻りつゝ、繰返す。

画工 (茫然(ぼうぜん)として黙想したるが、吐息(といき)して立つて(これ)(なが)む。)おい、おい、(それ)は何の唄だ。

小児一 あゝ、何の唄だか知らないけれどね、()うやつて唄つて居ると、誰か一人踊出(おどりだ)すんだよ。

画工 踊る? 誰が踊る。

小児二 誰が踊るつて、()のね、()の中へ入つて(しゃが)んでるものが踊るんだつて。

画工 誰も、入つては()らんぢやないか。

小児三 でもね、気味が悪いんだもの。

画工 気味が悪いと?

小児四 あゝ、あの、其がね、踊らうと思つて踊るんぢやないんだよ。ひとりでにね、踊るの。踊るまいと思つても。だもの、気味が悪いんだ。

画工 ()つて見よう、俺を入れろ。

一同 やあ、兄さん、入るかい。

画工 俺が入る、待て、(()を取つて大樹(たいじゅ)の幹によせかく)さあ、()いか。

小児三 目を(ふさ)いで居るんだぜ。

画工 (よし)、此の世間(よのなか)を、()つて踊りや本望(ほんもう)だ。

青山、葉山、羽黒の権現さん

小児等(こどもら)唄ひながら画工の身の周囲(まわり)(めぐ)る。()の脈を打つて伸び()つ縮むに連れて、画工、(ほと)んど、無意識なるが如く、片手又片足を異様に動かす。唄ふ声、愈々(いよいよ)()えて、次第に暗く成る。

時に、()の蔭より、顔黒く、(くちばし)黒く、(からす)(かしら)して真黒なるマント(よう)(きぬ)(すそ)まで(かぶ)りたる異体のもの一個(あらわ)()で、小児(こども)小児(こども)(あいだ)(まじ)りて(ひと)しく(まわ)る。

地に(うずくま)りたる画工、此の時、中腰に身を起して、半身を左右に振つて踊る真似す。

続いて、(はじめ)の黒きものと同じ姿したる三個、人の形の(からす)樹蔭(こかげ)より(あらわ)れ、同じく小児等(こどもら)(あいだ)(まじ)つて、画工の周囲を(めぐ)る。

小児等(こどもら)は絶えず唄ふ。いづれも其の(あやし)き物の姿を見ざる(おもむき)なり。あとの三()の烏()でて輪に加はる頃より、画工全く立上(たちあが)り、我を忘れたる(さま)して踊り(いだ)す。初手(しょて)の烏もともに、就中(なかんずく)(あと)なる三羽の烏は、足も地に着かざるまで跳梁(ちょうりょう)す。

彼等の踊狂(おどりくる)ふ時、小児等(こどもら)は唄を(とど)む。

一同 (手に手に石を(ふた)ツ取り、カチ/\と打鳴(うちな)らして)魔が来た、でん/\。影がさいた、もんもん。(四五(たび)口々に(さみ)しく(はや)す)真個(ほんと)に来た。そりや来た。

小児(こども)のうちに一人(いちにん)(たれ)とも知らず()く叫ぶとともに、ばら/\と、左右に分れて逃げ入る。

()()落つ。

木の葉落つる中に、一人(いちにん)の画工と四個の黒き姿と(しきり)に踊る。画工は靴を穿()いたり。(あと)の三羽の烏皆爪尖(つまさき)まで黒し。(はじめ)の烏ひとり、(すそ)をこぼるゝ(つま)(くれない)に、足白し。

画工 (疲果(つかれは)てたる(さま)、《どう》と仰様(のけざま)に倒る)水だ、水をくれい。

いづれも踊り()む。後の烏三羽、身を(ひら)いて一方に翼を()はしたる如く、腕を組合(くみあわ)せつゝ立ちて(なが)む。

初の烏 (うら若き女の声にて)寝たよ。まあ……だらしのない事。人間、()うは成りたくないものだわね。――其のうちに目が覚めたら()くだらう――別にお座敷の邪魔(じゃま)にも成るまいから。……どれ、(樹の蔭に(ひと)むら生茂(おいしげ)りたる(すすき)の中より、組立(くみた)てに交叉(こうさ)したる三脚の竹を取出(とりいだ)して()ゑ、次に、其上(そのうえ)(まる)き板を置き、卓子(テエブル)の如くす。)

後の烏、此の時、三羽(みっつ)とも無言にて近づき、手伝ふ(さま)にて、二脚のズツク製、おなじ組立ての床几(しょうぎ)卓子(テエブル)差向(さしむか)ひに置く。

(はじめ)の烏、又、旅行用手提げの中より、葡萄酒(ぶどうしゅ)(びん)取出(とりい)だし卓子(テエブル)の上に置く。後の烏()、青き酒、赤き酒の瓶、続いてコツプを取出(とりい)だして並べ(そろ)ふ。

やがて、初の烏、一(ちょう)蝋燭(ろうそく)を取つて、此に火を点ず。

舞台(あかる)くなる。

初の烏 (思ひ着きたる(てい)にて、(ひと)ツの瓶の酒を玉盞(ぎょくさん)()ぎ、(しょく)(かざ)す。)おゝ、綺麗(きれい)だ。(あかり)が映つて、透徹(すきとお)つて、いつかの、あの時、夕日の色に輝いて、(ちょう)ど東の空に立つた(にじ)の、其の虹の目のやうだと云つて、薄雲(うすぐも)(かざ)して御覧なすつた、奥様の白い手の細い指には重さうな、指環の(たま)に似てること。

()の烏、打傾(うちかたむ)いて聞きつゝあり。

あゝ、(たま)が溶けたと思ふ酒を飲んだら、どんな味がするだらうねえ。(烏の(かしら)を頂きたる、咽喉(のど)の黒き(ぬの)をあけて、(わか)き女の(おもて)(あらわ)し、酒を飲まんとして猶予(ためら)ふ)あれ、こゝは私には口だけれど、烏にすると(ちょう)ど咽喉だ。可厭(いや)だよ。咽喉だと血が流れるやうでねえ。こんな事をして居るんだから、気に成る。よさう。まあ、独言(ひとりごと)を云つて、誰かと話をして居るやうだよ……

四辺(あたり)を《みまわ》す)()う/\、思つた同士、人前で内証(ないしょう)で心を(かよ)はす時は、(ひと)ツに向つた卓子(テエブル)が、人知れず、(あし)を上げたり下げたりする、(かすか)な、しかし脈を打つて、血の通ふ、其の符牒(ふちょう)で、黙つて居て、暗号(あいず)が出来ると、何時(いつ)も奥様がおつしやるもんだから。――卓子(テエブル)さん(卓をたゝく)(こと)にお前さんは()(あし)で、狐狗狸(こっくり)さん、其のまゝだもの。()きてるも同じだと思ふから、つい、お話をしたんだわ。しかし、うつかりして、少々大事なことを饒舌(しゃべ)つたんだから、お前さん聞いたばかりにして置いておくれ。誰にも言つては不可(いけな)いよ。一寸(ちょいと)()いだ酒を()うしよう。ああ、いゝ事がある。(酔倒(よいたお)れたる画工に近づく。後の烏一ツ、同じく近寄りて、画工の(うなじ)(いだ)いて仰向(あおむ)けにす。)

(よっ)ぱらひさん、さあ、冷水(おひや)

画工 (飲みながら、(うつつ)にて)あゝ、日が出た、が、俺は暗夜(やみ)だ。(其まゝ寝返る。)

初の烏 日が出たつて――赤い酒から、私の此の烏を透かして、まあ。――()()いた太陽(おひさま)の夢を見たんだらう。何だか(なぞ)のやうな事を言つてるわね。――さあ/\、お寝室(ねま)こしらへをして置きませう。(もとに立戻(たちもど)りて、又(すすき)の中より、此のたびは一領の天幕(テント)を引出し、卓子(テエブル)(おお)うて建廻(たてま)はす。三羽の烏、左右より此を手伝ふ。天幕(テント)(うち)は、(けん)ぶつ席より見えざるあつらへ。)お(たのし)みだわね。(天幕(テント)背後(うしろ)にして正面に立つ。三羽の烏、其の両方に(たたず)む。)

もう、すつかり日が暮れた。(時に、はじめてフト自分の(ほか)に、烏の姿ありて立てるに心付(こころづ)く。されどおのが目を(あやし)風情(ふぜい)。少しづゝ、あちこち歩行(ある)く。歩行(ある)くに連れて、烏の形動き(まと)ふを見て、次第に疑惑(うたがい)を増し、手を挙ぐれば、烏()も同じく挙げ、(そで)振動(ふりうご)かせば、(ひと)しく振動かし、足を爪立(つまだ)つれば爪立ち、(しゃが)めば踞むを(すか)(なが)めて、今はしも激しく恐怖し、(あわただ)しく駈出(かけいだ)す。)

帽子を目深(まぶか)に、オーバーコートの鼠色(ねずみいろ)なるを()、太き洋杖(ステッキ)を持てる老紳士、憂鬱(ゆううつ)なる重き態度にて登場。

(はじめ)の烏ハタと行当(ゆきあた)る。驚いて身を(ひら)く。紳士()の袖を(とら)ふ。初の烏、(のが)れんとして(おど)す真似して、かあ/\、と烏の声をなす。泣くが如き女の声なり。

紳士 こりや、地獄の門を背負(しょ)つて、空を飛ぶ真似をするか。((つかみ)ひしぐが如くにして突離(つきはな)す。初の烏、《どう》と地に坐す。三羽の烏は(わざ)とらしく吃驚(きっきょう)身振(みぶり)をなす。)地を()ふ烏は、鳴く声が違ふぢやらう。うむ、()うぢや。地を這ふ烏は何と鳴くか。

初の烏 御免なさいまし、()うぞ、御免なさいまし。

紳士 はゝあ、御免なさいましと鳴くか。(繰返して)御免なさいましと鳴くぢやな。

初の烏 はい。

紳士 うむ、(重く(うなず)く)聞えた。とに(かく)(きさま)の声は聞えた。――こりや、俺の声が分るか。

初の烏 えゝ。

紳士 俺の声が分るかと云ふんぢや。こりや、(つら)を上げろ。――()うだ。

初の烏 御前様(ごぜんさま)、あれ……

紳士 ((ステッキ)を以つて、其の(すそ)(おさ)ふ)ばさ/\騒ぐな。(やり)で脇腹を()かれる(ほか)に、樹の上へ得上(えあが)身体(からだ)でもないに、羽ばたきをするな、女郎(めろう)、手を()いて、(じっ)として口をきけ。

初の烏 (まこと)申訳(もうしわけ)のございません、飛んだ失礼をいたしました。……先達(せんだ)つて、奥様がお好みのお催しで、お(やしき)に園遊会の仮装がございました時、(わたくし)がいたしました、あの、此のこしらへが、余りよく似合つたと、皆様が()うおつしやいましたものでございますから、つい、心得違(こころえちが)ひな事をはじめました。あの――(あと)で、御前様が御旅行を遊ばしましたお留守中は、お邸にも御用が(すくの)うございますものですから、自分の(かい)もの、用達しだの、何のと申して、奥様にお(ひま)を頂いては、こんな(ところ)へ出て参りまして、(たま)に通りますものを(おど)かしますのが面白くて成りませんので、つい、あの、癖になりまして、今晩も……旦那様(だんなさま)に申訳のございません失礼をいたしました。()うぞ、御免遊ばして下さいまし。

紳士 言ふ事は其だけか。

初の烏 はい?(聞返(ききかえ)す。)

紳士 俺に云ふ事は、それだけか、女郎(めろう)

初の烏 あの、(口籠(くちごも)る)今夜は()ういたしました事でございますか、(わたくし)(なり)……あの、影法師が、此の、野中(のなか)宵闇(よいやみ)判然(はっきり)と見えますのでございます。其さへ気味が悪うございますのに、気をつけて見ますと、二つも三つも、(わたくし)一所(いっしょ)に動きますのでございますもの。

三方に分れて(たたず)む、三羽の烏、また打頷(うちうなず)く。

もう可恐(おそろし)く成りまして、夢中で駈出(かけだ)しましたものですから、御前様(ごぜんさま)に、つい――あの、そして……御前様は、何時(いつ)御旅行さきから。

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