一握の砂

1話 煙 一

1,222字 約2分 1998年8月11日 公開

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(やまひ)のごと

思郷(しきやう)のこころ()く日なり

目にあをぞらの(けむり)かなしも

(おの)が名をほのかに呼びて

涙せし

十四(じふし)の春にかへる(すべ)なし

青空に消えゆく煙

さびしくも消えゆく煙

われにし似るか

かの旅の汽車の車掌(しやしやう)

ゆくりなくも

我が中学の友なりしかな

ほとばしる喞筒(ポンプ)の水の

心地(ここち)よさよ

しばしは若きこころもて見る

師も友も知らで()めにき

(なぞ)に似る

わが学業のおこたりの(もと)

教室の窓より()げて

ただ一人

かの城址(しろあと)に寝に行きしかな

不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて

空に吸はれし

十五(じふご)の心

かなしみといはばいふべき

物の(あぢ)

我の()めしはあまりに早かり

晴れし空(あふ)げばいつも

口笛を吹きたくなりて

吹きてあそびき

夜寝ても口笛吹きぬ

口笛は

十五の我の歌にしありけり

よく(しか)る師ありき

(ひげ)の似たるより山羊(やぎ)と名づけて

口真似もしき

われと(とも)

小鳥に石を投げて遊ぶ

後備大尉(こうびたいゐ)の子もありしかな

城址(しろあと)

石に腰掛(こしか)

禁制の()()をひとり(あぢは)ひしこと

その(のち)に我を捨てし友も

あの頃は共に書読(ふみよ)

ともに遊びき

学校の図書庫(としよぐら)の裏の秋の草

()なる花咲きし

今も名知らず

花散れば

()づ人さきに白の(ふく)()(いへ)()づる

我にてありしか

今は亡き姉の恋人のおとうとと

なかよくせしを

かなしと思ふ

夏休み()ててそのまま

かへり()

若き英語の教師もありき

ストライキ思ひ()でても

今は()や吾が血(をど)らず

ひそかに(さび)

盛岡(もりをか)の中学校の

露台(バルコン)

欄干(てすり)最一度(もいちど)我を()らしめ

神有りと言ひ張る友を

()きふせし

かの路傍(みちばた)(くり)()(もと)

西風に

内丸大路(うちまるおほぢ)の桜の葉

かさこそ散るを()みてあそびき

そのかみの愛読の(しよ)

大方(おほかた)

今は流行(はや)らずなりにけるかな

石ひとつ

坂をくだるがごとくにも

我けふの日に到り着きたる

(うれ)ひある少年(せうねん)の眼に(うらや)みき

小鳥の飛ぶを

飛びてうたふを

解剖(ふわけ)せし

蚯蚓(みみず)のいのちもかなしかり

かの校庭の木柵(もくさく)(もと)

かぎりなき知識の(よく)に燃ゆる眼を

姉は(いた)みき

人恋ふるかと

蘇峯(そほう)(しよ)を我に(すす)めし友早く

(かう)退(しりぞ)きぬ

まづしさのため

おどけたる手つきをかしと

我のみはいつも笑ひき

博学の師を

()(さい)に身をあやまちし人のこと

かたりきかせし

師もありしかな

そのかみの学校一のなまけ者

今は真面目(まじめ)

はたらきて()

田舎(ゐなか)めく旅の姿を

三日(みか)ばかり都に(さら)

かへる友かな

茨島(ばらじま)の松の並木の街道を

われと行きし少女(をとめ)

(さい)をたのみき

眼を病みて黒き眼鏡(めがね)をかけし頃

その頃よ

一人泣くをおぼえし

わがこころ

けふもひそかに泣かむとす

友みな(おの)が道をあゆめり

(さき)んじて恋のあまさと

かなしさを知りし我なり

先んじて()

(きよう)(きた)れば

友なみだ()れ手を()りて

酔漢(ゑひどれ)のごとくなりて語りき

人ごみの中をわけ()

わが友の

むかしながらの(ふと)(つゑ)かな

見よげなる年賀の(ふみ)を書く人と

おもひ過ぎにき

三年(みとせ)ばかりは

夢さめてふっと悲しむ

わが眠り

昔のごとく安からぬかな

そのむかし秀才(しうさい)の名の高かりし

(らう)にあり

秋のかぜ吹く

近眼(ちかめ)にて

おどけし歌をよみ()でし

茂雄(しげを)の恋もかなしかりしか

わが妻のむかしの願ひ

音楽のことにかかりき

今はうたはず

友はみな或日(あるひ)四方(しはう)に散り()きぬ

その(のち)八年(やとせ)

()()げしもなし

わが恋を

はじめて友にうち明けし(よる)のことなど

思ひ()づる日

糸切れし紙鳶(たこ)のごとくに

若き日の心かろくも

とびさりしかな

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