俊寛

1話

851字 約2分 1998年12月19日 公開

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 俊寛様の話ですか? 俊寛様の話くらい、世間に間違って伝えられた事は、まずほかにはありますまい。いや、俊寛様の話ばかりではありません。このわたし、――有王(ありおう)自身の事さえ、(とん)でもない嘘が伝わっているのです。現についこの間も、ある琵琶法師(びわほうし)が語ったのを聞けば、俊寛様は御歎きの余り、岩に頭を打ちつけて、(くる)(じに)をなすってしまうし、わたしはその御死骸(おなきがら)を肩に、身を投げて死んでしまったなどと、云っているではありませんか? またもう一人の琵琶法師は、俊寛様はあの島の女と、夫婦の(かた)らいをなすった上、子供も大勢御出来になり、都にいらしった時よりも、楽しい生涯(しょうがい)を御送りになったとか、まことしやかに語っていました。前の琵琶法師の語った事が、跡方(あとかた)もない嘘だと云う事は、この有王が生きているのでも、おわかりになるかと思いますが、後の琵琶法師の語った事も、やはり()い加減の出たらめなのです。

 一体琵琶法師などと云うものは、どれもこれも(われ)(がお)に、嘘ばかりついているものなのです。が、その嘘のうまい事は、わたしでも()めずにはいられません。わたしはあの笹葺(ささぶき)の小屋に、俊寛様が子供たちと、御戯(おたわむ)れになる所を聞けば、思わず微笑を浮べましたし、またあの浪音の高い月夜に、狂い死をなさる所を聞けば、つい涙さえ落しました。たとい嘘とは云うものの、ああ云う琵琶法師(びわほうし)の語った嘘は、きっと琥珀(こはく)の中の虫のように、末代までも伝わるでしょう。して見ればそう云う嘘があるだけ、わたしでも今の内ありのままに、俊寛様の事を御話しないと、琵琶法師の嘘はいつのまにか、ほんとうに変ってしまうかも知れない――と、こうあなたはおっしゃるのですか? なるほどそれもごもっともです。ではちょうど夜長を幸い、わたしがはるばる鬼界(きかい)(しま)へ、俊寛様を御尋ね申した、その時の事を御話しましょう。しかしわたしは琵琶法師のように、上手にはとても話されません。ただわたしの話の取り()は、この有王が()のあたりに見た、飾りのない真実と云う事だけです。ではどうかしばらくの(あいだ)、御退屈でも御聞き下さい。

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