○○獣

5話 崩れる東京ビル

1,033字 約2分 2003年12月16日 公開

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 敬二少年は、石を積みかさねてつくられたビルディングが、()けるように消えてゆくのを見た。――なんという怪奇であろう。

「……」敬二少年は、愕きのあまり、叫び声さえも咽喉(のど)をとおらない。

 彼が見た光景を、もっとくわしくいうと、こうである。――

 彼は、東京ビルを背にして立っていたのであった。ところがうしろにカチカチカチッと硬いものをはげしく叩くような音がしたので、うしろをふりかえってみると、さあ何ということであろう。東京ビルの入口に立っている太い柱の一本が、下の方からだんだん(えぐ)られてくるのであった。柱はみるみる抉られてしまって、メリメリと、大きな音をたててゴトンと下に落ちた。そして中心を失って、スーッと横に(かたむ)くと、地響(じひびき)をたてて地上に(たお)れ、ポーンと粉々にこわれてしまった。

 敬二少年は、わずかに身をかわしたので、(かろ)うじてその柱の下敷きになることから救われた。

 カチカチカチッ。――また怪音がする。

「おやッ――」と、音のする方をふりかえった少年の目に、また大変な光景が目にうつった。

 それは、東京ビルの玄関が、下の方からズンズン抉られてゆくことであった。まるで砂糖で作った菓子を下の方から何者かが喰べでもしているように見えた。堅牢(けんろう)なコンクリートの壁が、みるみる消えてゆく。そのうちにガラガラと音がして、ぶったおれた。

「ややッ、これは……」寝坊(ねぼう)宿直(しゅくちょく)が、やっと目をさまして、とびだしてきた。彼はあまりのことに、まだ夢でもみている気で、目をこすっていた。

 警官が()けつけてきた。

 通りがかりの()(ぱら)いが、酔いもさめきった青い顔をして、次第に崩れゆく東京ビルを呆然(ぼうぜん)と見守っていた。警官にも、何事が起っているのか、ハッキリしなかったが、ただハッキリしているのは見る見るうちに東京ビルが崩れてゆくという奇怪な出来ごとだった。火災報知器が鳴らされた。ものすごい物音に起きてきた野次馬の一人が、気をきかしたつもりで、その(ボタン)を押したのだろう。

 その騒ぎのうちに、ビルディングはすこしずつ崩れていって、やがて大音響をたてると、月明(げつめい)の夜が、一瞬に真暗になるほど恐ろしい砂煙をあげてその場に崩潰(ほうかい)してしまった。まるで爆撃されたような惨澹(さんたん)たる光景であった。

「一体、これはどうしたというわけだ」と、駈けつけた人々は叫んだ。

「まさか白蟻がセメントを喰べやしまいし、ハテどうも合点のゆかぬことだ」

 誰も、この東京ビル崩壊事件の真相を知っている者はなかった。

 まるで夢のような、銀座裏の怪奇事件であった。

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