9話 また新聞記事
読み方を変える
あの不思議な○○獣は、一体どこへいってしまったんだろう。
それからまた、硬いコンクリートや鉄の柱がはげしい音をたてて消えてゆくビルディングの奇病は、その後どうなったんであろうか。
敬二少年は、思いがけなく十円紙幣が懐中に転がりこんだので、彼はしばし夢ごこちであったが、いくど懐中から出して改めてみても、十円紙幣はいつも十円紙幣に見えた。化け狸がくれた紙幣ならもうこのへんで木の葉になっていいころだったが、そうならないところを考えると、なるほどやはり本当に十円儲かったのだと分った。
そうなると敬二は、この十円をどういう具合につかったらいいのだろうかと、また考えこまなければならなかった。
いろいろ考えた末、彼はいいことを考えついた。それはカメラを手に入れることだった。カメラを手に入れるといっても、十円のカメラを買ったのでは、みすぼらしい器械しか手に入らない。それではつまらぬと思ったので、たいへん考えた末、ちかごろ高級カメラとして名のあるライカを借りることにした。ライカを一週間借りて損料十円――ということにきまった。この店は、敬二がよく使いにゆく店だったので、店でもたいへん便宜をはかってくれて、十円の損料だけでよいということだった。
敬二はすっかり嬉しくなって、速写ケースに入ったライカを首にかけて離さなかった。使いにゆくときも、食事をするときも寝るときも、彼はカメラを首にかけていた。カメラを離しているのは、お風呂に入るときだけだった。彼はこの一週間のうちに、十円以上の値打のあるなにか素晴らしい写真をとりたいものと、それをのみ念じていた。
ドン助はどうしたのか、さっぱり姿を見せなかった。
十円儲かったその次の日の朝のことだった。配達された朝刊を見て、敬二は目を丸くして愕いた。
社会面のトップへもって来て、三段ぬきのデカデカ活字で○○獣のことがでていたのである。
――ビル崩壊の謎はこれか? ○○獣を見た東京ビル主任永田純助氏語る――
という標題で、「私は昨夜この眼で不思議なけだもの○○獣を見ました。これは雪達磨を十個合わせたぐらいの丸い大きな目をもった恐ろしい怪物です。そいつは空からフワリフワリと下りて来て、私を睨みつけたのです。私は日本男子ですから、勇敢にも○○獣を睨みかえしてやりましたが、その○○獣の身体というのは、狐のように胴中が細く、そして長い尻尾を持っていまして、身体の全長は五十メートルぐらいもありました。しかし不思議なのはその身体です。これはまるで水母のように透きとおっていて、よほど傍へよらないと見えません。とにかく恐ろしい獣で、私の考えでは、あれはフライにして喰べるのがいちばんおいしいだろうと思いました。云々」
敬二はそこまで読むと、ドン助の大法螺にブッとふきだした。ドン助はいうことが無いのに困って、こんな出鱈目をいったのだろうが、フライにして喰べるといいなどとはコックだというお里を丸だしにしていて笑わせる。