活人形

16話 十七 同士討

1,914字 約4分 2014年2月23日 公開

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 高田はなおも詰寄りて、「妖物(ばけもの)屋敷に長居は無益(むやく)だ。直ぐ帰るから早く渡せ。「そりゃ借りた金だ抵当のお藤が居なくなれば、きっとお返済(かえし)申すが、まだ家の財産も我が所有(もの)にはならず、千円という大金、今といっては致方がございません。どうぞ暫時(しばらく)の処を御勘弁。「うんや、ならねえ。この駄平、言い出したからは、血を絞っても取らねば帰らぬ。きりきりここへ出しなさい。と言い募るに得三は(かっ)として、「ここな、没分暁漢(わからずや)。無い者ア仕方がねえ。と足を出せば、「踏む気だな、()いわ。踏むならば踏んで見ろ。おおそれながらと(まか)り出て、(きさま)の悪事を訴えて、首にしてやる覚悟しやあがれ。得三はぎょっとして、「何の、踏むなどという図太い了簡(りょうけん)を出すものか。と慌つる(さま)に高田は附入(つけい)り、「そんなら金を、さあ返済(かえ)せ。「今といっては何ともどうも。「じゃ訴えて首にしようか。「それはあんまり御無体な。「ええ! 面倒だ。と立懸(たちかか)れば、「まあ、待ってくれ。と(たもと)を取るを、「乞食め、動くな。と振離され、得三たちまち血相変り、高田の帯際むずと(つか)みて、じりじりと引戻し、人形の(うしろ)の切抜戸を、内よりはたと(とざ)しける。

 何をかなしけむ。壁厚ければ、内の物音外へは漏れず。

 ややありて戸を開き差出(さしいだ)したる得三の顔は、(まなこ)据って唇わななき、四辺(あたり)(きっ)と見廻して、「八蔵、八蔵、と呼懸けたり。八蔵は入来りぬ。得三は声を潜め、「八、ちょっとここへ来い。「へい、何、何事でございます。と人形の袖を(くぐ)って密室の戸口に到れば、得三は振返って(うしろ)(ゆびさ)し、「これを。……八蔵は(のぞ)き込みて()り返り「ひゃっ、高田(さん)が自殺をしたッ。と叫ぶを、「(しっ)! 声高しと押止めて、眼を見合わせ少時(しばらく)無言(だんまり)、この時一番鶏の声あり。

 得三は片頬(かたほ)に物凄き(えみ)を含みて、「八蔵。という顔を下より見上げて、「へい。「お前にもそう見えるかい。「()()(なに)が。「いやさ。高田の死骸は自殺と見えるか。「へい。自分で短刀の(つか)を握ってそして自分の(のど)を突いてれば誰が見ても全く自殺。「(うむ)、たしかにそう見える。が、実は(おれ)が殺したのだ。「ええ、お(やん)なすったか。「突然藤が居なくなったぞ。八、先刻(さっき)からお録は見懸けまいな。「へい、あの婆様(ばあさん)はどこへ行ったか居りません。「そうだろう。彼奴(あいつ)もしたたか者だ。お藤を誘拐(かどわか)して行ったに違いない。あの()はまだ小児(こども)だ。何にも知らないから()し、老婆(ばばあ)も、我等(おれら)と一所に働いた奴だ。人に悪事は饒舌(しゃべる)まい。惜くも無し、心配も無いが、高田の業突張(ごうつくばり)、大層怒ってな。お藤がなくなったら即金で千円返せ、返さなけりゃ、訴えると言い募って、あの火吸器(すいふくべ)だもの、何というても肯くものか。すんでに駈出そうとしやあがる。ままよ毒喰わば皿迄と、(おれ)が突殺したのだ。「それは()うございました。「すると(やっこ)さん苦しいものだから、(こぶし)でしっかりとこの通り短刀(どす)の柄を握ったのよ。「体の可い自殺でございますね。「そうよ。そこで(おれ)が旨い事を案じついたて。これからあの下枝を殺してさ。「下枝(さん)を。「三年以来(このかた)辛抱して、気永に(なび)くのを待っていたが、ああ強情では仕様が()え。今では憎さが百倍だ。虐殺(なぶりごろし)にして腹癒(はらいせ)して、そうして下枝の(そば)に高田の死骸を(たお)して置く。の、そうすれば誰が目にも、高田が下枝を殺して、自殺をしたと見えるというものだ。何と可い工夫であろうが。」

 さりとは底の知れぬ悪党なり。八蔵は手を()って「旨い。と叫べり。「そうして(おれ)が口の(さき)で旨く世間を(あざむ)けば、(ほか)に親類は無し、赤城家の財産はころりと(おれ)が手へ転がり込む。何と八蔵そうなる日にはお前に一割は遣るよ。「ええ難有(ありがた)い、夢になるな夢になるな。「もうこれッ切り御苦労は懸けないが、もう一番(ひとつ)頼まれてくれ。「へい、何なりとも。「銀平はどうした。「しきりに飲んでおります。「彼奴(あいつ)(ついで)に片附けてしまいたい、家でやっては面倒だから、これから飲直すといって連出してな。「へいへい、なるほど。「どこかへ行って酒を飲まして、ちょいと例の毒薬を飲ましゃあ訳は無い、酔って寝たようになって、翌日(あす)の朝はこの世をおさらばだ。「(かしこま)りました。しかし今時青楼(おちゃや)で起きていましょうか。「藤沢の女郎屋は遠いから、長谷(はせ)あたりの淫売店(じごくやど)へ行けば、いつでも起きていらあ、一所にお前も寝て来るが可い。「じゃあ直ぐと参ります。「御苦労だな。「なんの貴下(あなた)。と行懸くるを、「待て、待て。「え。「宿屋の亭主とかはどうしたのだ。「手足を縛って猿轡(さるぐつわ)()まして、雑具部屋へ入れときました。「よし、よし。仕事が済んだら(しら)べて見て大抵なら無事に帰してやれ。「へい左様なら。と八蔵は勝手に行きて銀平を見れば、「八、やい、置去りにしてどこへ行っていた。というさえ今は巻舌にて、泥のごとくに酔うたるを、飲直さむとて連出しぬ。

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