婦人十一題

8話 八月

293字 約1分 2011年10月1日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

 (わか)きものの、(やま)(ふか)(あつさ)()けたるが、(くも)(みね)(たか)(いは)()に、嘉魚(いはな)()りて一人(ひとり)()たりけり。碧潭(へきたん)()一脈(いちみやく)(らん)()()きて、(ゆか)しき(うすもの)(かげ)()()むと(おぼ)えしは、(とし)()庄屋(しやうや)(もり)()でて、背後(うしろ)なる岨道(そばみち)(とほ)(ひと)の、ふと(たゝず)みて見越(みこ)したんなる。無地(むぢ)かと(おも)(こん)透綾(すきや)に、緋縮緬(ひぢりめん)長襦袢(ながじゆばん)小柳繻子(こやなぎじゆす)(おび)しめて、(つま)(かた)きまで(つゝ)ましきにも、姿(すがた)のなよやかさ()ちまさり、打微笑(うちほゝゑ)みたる口紅(くちべに)さへ、常夏(とこなつ)(はな)化身(けしん)()たるかな。斷崖(がけ)清水(しみづ)龍女(りうぢよ)(べう)あり。われは浦島(うらしま)()か、(ひめ)(れい)ぞと()しが、やがて()んぬ。なか/\に(とき)のはやりに()まぬ服裝(ふくさう)の、(かへ)つて鶯帶(あうたい)蝉羅(せんら)にして、霓裳(げいしやう)羽衣(うい)風情(ふぜい)をなせる、そこの農家(のうか)姉娘(あねむすめ)の、(さと)伯母前(をばぜ)()ふなりしを。

目次に戻る

目次