2話 〔大切なる鍵〕
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憲法によって与えられたところの、国民の権利と義務は重大なるものである。憲法そのものは、国家を組み立つるところの根本組織である。その根本組織によって、国民に与えられたるところの臣民権、言い換えれば国民の義務は頗る重大なるものである。而してその最も大切なるものは、選挙である。全体国民が、今税が高い、あるいは政府は非常の悪政を行うという怨嗟の声を放つのは、卑屈なる専制時代の国民の声であります。憲法の下には、税を取るのも、あるいは金を使うのも、国民の権利義務を規定するところのすべての法律も、帝国議会の協賛なくして行わるるものではないんである。然らば、税も国民が承知したものである。法律も協賛を与えたものである。而して行政そのものには、帝国議会は充分に監督権を持っておるのである。もし法律そのものが不完全であればだ、帝国議会は発議の権を以て、法律を改正することも、あるいは廃することも、あるいは新たに法律を拵えることも、随意に出来るのである。かくの如き大なる権利を国民に授けられたものであるのである。
然らばこれを平易に説き明かせば、陛下は、明治大帝は、国民に大切なる鍵を御渡しになったというて宜しいのである。而して貴重なる国家を左右する、法律を左右する鍵をだ、卑劣なる、野卑なる、陰険なる輩に奪われて、而して禍を受けて、而して禍に苦しんで、種々の不平を唱えるとは何事ぞ。あたかもこれは自ら過てるその報いであるんである。畢竟、これ卑屈なる精神である。何故に、この権利を重んぜざるぞ。
国家の目的は、常に国運の隆盛、多数国民の福利を捗らす事に勉めているのである。国家の意志は、国民の意志である。国民の意志の集合したものが、国家の意志である。国民の是なりと認むる事が、国是である。これが多数政治の原則である。然れば国民の国家に対し、憲法に対する責任の大なる事は、即ち貴重なる陛下の賜ったところの鍵を、大切にこれを保つという事が必要である。ここに於て投票の、一票も自由の精神がこれに宿らなくてはならぬのである。個人の独立、個人の自由というものが集合して、ついに自治となる。帝国憲法は、国家の自治である。国民が集合して、而して国民的勢力が議会に集注さるるのである。国家的勢力は、何によりて導かるるかというと、即ち輿論である。この輿論の勢力が議会に集中されて、初めて帝国議会の威厳、帝国議会の信用がここに成立つのである。かくの如き憲政は、輿論によって導かるるものである。而して輿論そのものは、知識ある階級によって支配せらるるのである。然るに、往々世の俗人は過ってだ、政治は俗なるものである、自己は学者である、自己は実業家である、一は宗教家である、一は何の職業を持っているのであるというて、これらの人々即ち国民の中等階級、知識ある階級が政治から退けば、到頭劣悪なる一種の政治的商売が起るのである。従来の党派は、往々その弊に今陥りつつあるのを遺憾とするのである。このたびの解散によりて、このたびの改選によって、国民はやや自覚を始めた事を喜ぶのである。