古事記 02 校註 古事記

31話 古事記 中つ卷 〔久米歌〕

2,320字 約5分 2013年7月15日 公開

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 かれここに宇陀に、兄宇迦斯(えうかし)弟宇迦斯(おとうかし)一と二人あり。かれまづ八咫烏を遣はして、二人に問はしめたまはく、「今、天つ神の御子()でませり。(いまし)たち仕へまつらむや」と問ひたまひき。ここに兄宇迦斯、鳴鏑(なりかぶら)もちて、その使を待ち射返しき。かれその鳴鏑の落ちし(ところ)を、訶夫羅前(かぶらざき)二といふ。「待ち撃たむ」といひて、(いくさ)を聚めしかども、軍をえ聚めざりしかば、仕へまつらむと欺陽(いつは)りて、大殿を作りて、その殿内(とのぬち)押機(おし)を作りて待つ時に、弟宇迦斯(おとうかし)まづまゐ向へて、(をろが)みてまをさく、「僕が兄兄宇迦斯、天つ神の御子の使を射返し、待ち攻めむとして軍を聚むれども、え聚めざれば、殿を作り、その内に押機(おし)を張りて、待ち取らむとす、かれまゐ向へて顯はしまをす」とまをしき。ここに大伴(おほとも)(むらじ)等が祖(みち)(おみ)の命、久米(くめ)(あたへ)等が祖大久米(おほくめ)の命二人、兄宇迦斯(えうかし)()びて、()りていはく、「《い》三が作り仕へまつれる大殿内(とのぬち)には、おれ四まづ入りて、その仕へまつらむとする状を明し白せ」といひて、横刀(たち)手上(たがみ)(とりしば)り五、(ほこ)ゆけ矢刺して六、追ひ入るる時に、すなはちおのが作れる押機(おし)に打たれて死にき。ここに()き出して斬り(はふ)りき。かれ其地(そこ)を宇陀の血原七といふ。然してその弟宇迦斯(おとうかし)が獻れる大饗(おほみあへ)をば、悉にその御軍(みいくさ)に賜ひき。この時、御歌よみしたまひしく、

宇陀の 高城(たかき)八に 鴫羂(しぎわな)張る。

()が待つや九 鴫は(さや)らず、

いすくはし一〇 (くぢ)(さや)る一一。

前妻(こなみ)一二が ()乞はさば、

立柧(たちそば)一三の 實の()けくを

こきしひゑね一四。

後妻(うはなり)一五が 菜乞はさば、

《いちさかき》()一六の大けくを

こきだひゑね一七  (歌謠番號一〇)

 ええ、しやこしや。こはいのごふぞ一八。ああ、しやこしや。こは嘲咲(あざわら)ふぞ。かれその弟宇迦斯、こは宇陀の水取(もひとり)等が祖なり。

 其地(そこ)より幸でまして、忍坂(おさか)一九の大室に到りたまふ時に、尾ある土雲二〇八十建(やそたける)、その室にありて待ちいなる二一。かれここに天つ神の御子の命もちて、御饗(みあへ)八十建(やそたける)に賜ひき。ここに八十建に宛てて、八十膳夫(かしはで)()けて、人ごとに(たち)佩けてその膳夫(かしはで)どもに、誨へたまはく、「歌を聞かば、一時(もろとも)に斬れ」とのりたまひき。かれその土雲を打たむとすることを(あか)して歌よみしたまひしく、

忍坂(おさか)の 大室屋に

(さは)に ()入り居り。

人多に 入り居りとも、

みつみつし二二 久米の子が、

頭椎(くぶつつ)い二三 石椎(いしつつ)いもち

撃ちてしやまむ。

みつみつし 久米の子らが、

頭椎い 石椎いもち

今撃たば()らし。  (歌謠番號一一)

 かく歌ひて、刀を拔きて、一時に打ち殺しつ。

 然ありて後に、登美毘古を撃ちたまはむとする時、歌よみしたまひしく、

みつみつし 久米の子らが

粟生(あはふ)には 臭韮(かみら)(もと)二四、

そねが(もと) そね()(つな)ぎ二五て

撃ちてしやまむ。  (歌謠番號一二)

 また、歌よみしたまひしく、

みつみつし 久米の子らが

(もと)に ()ゑし山椒(はじかみ)二六、

口ひひく二七 (われ)は忘れじ。

撃ちてしやまむ。  (歌謠番號一三)

 また、歌よみしたまひしく、

神風(かむかぜ)の二八 伊勢の海の

大石(おひし)に はひもとほろふ二九

細螺(しただみ)三〇の、いはひもとほり

撃ちてしやまむ。  (歌謠番號一四)

 また兄師木(えしき)弟師木(おとしき)三一を撃ちたまふ時に、御軍(しまし)疲れたり。ここに歌よみしたまひしく、

楯並(たたな)めて三二 伊那佐(いなさ)の山三三の

()の間よも い行きまもらひ三四

戰へば (われ)はや()ぬ三五。

島つ鳥三六 鵜養(うかひ)(とも)三七、

()けに來ね。  (歌謠番號一五)

 かれここに邇藝速日(にぎはやび)の命三八まゐ()きて、天つ神の御子にまをさく、「天つ神の御子天降(あも)りましぬと聞きしかば、追ひてまゐ降り來つ」とまをして、天つ(しるし)三九を獻りて仕へまつりき。かれ邇藝速日(にぎはやび)の命、登美毘古が妹登美夜毘賣(とみやびめ)に娶ひて生める子、宇摩志麻遲(うましまぢ)の命。こは物部の連、穗積の臣、臣が祖なり。かれかくのごと、荒ぶる神どもを言向(ことむ)けやはし、(まつろ)はぬ人どもを退()(はら)ひて、畝火(うねび)白檮原(かしはら)の宮四〇にましまして、天の下()らしめしき。

一 ウカチの地に居る人の義。兄弟とするのは首領と副首領の意。

二 所在不明。

三 二人稱の賤稱。

四 同前。既出。

五 大刀のつかをしかと握つて。

六 矛を向け矢をつがえて。

七 所在不明。

八 高い築造物。

九 ヤは間投の助詞。

一〇 枕詞。語義不明。

一一 朝鮮語に鷹をクチという。鯨とする説もある。この句まで譬喩。

一二 コナミは前に娶つた妻。古い妻である。

一三 ソバノ木、カナメモチ。

一四 語義不明の句。原文、「許紀志斐惠泥。」紀はキの乙類であるから、コキは動詞()くとすれば上二段活になる。

一五 妻のある上に更に娶つた妻。

一六 ヒサカキ。

一七 語義不明の句。原文「許紀陀斐惠泥。」紀はキの乙類であるから、コキダは、許多の意のコキダクと同語では無いらしい。

一八 いばるのだ。靈異記に犬が威壓するのにイノゴフと訓している。イゴノフゾとする説は誤り。

一九 奈良縣磯城郡、泊瀬溪谷の入口。

二〇 穴居していた先住民。

二一 待ちうなる。

二二 敍述による枕詞。威勢のよい。

二三 既出の頭椎の大刀に同じ。イは語勢の助詞。イシツツイも同じ。石器である。

二四 くさいニラが一本。

二五 その根もとと芽とを一つにして。

二六 シヨウガは藥用植物で外來種であるからここはサンショウだろうという。

二七 口がひりひりする。

二八 枕詞。國つ神が大風を起して退去したからいうと傳える。

二九 這いまわつている。

三〇 ラセン形の貝殼の貝。肉は食料にする。

三一 磯城の地に居た豪族。

三二 枕詞。楯を並べて射るとイの音に續く。

三三 奈良縣宇陀郡伊那佐村。

三四 樹の間から行き見守つて。

三五 わたしは飢え疲れた。

三六 枕詞。

三七 前出の阿多の鵜養たち。鵜に助けに來いというのは魚を持つて來いの意である。

三八 系統不明。舊事本紀にはオシホミミの命の子とする。

三九 天から持つて來た寶物。

四〇 奈良縣畝傍山の東南の地。

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