60話 古事記 中つ卷 〔鎭懷石と釣魚〕
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かれその政いまだ竟へざる間に、妊ませるが、産れまさむとしつ。すなはち御腹を鎭ひたまはむとして、石を取らして、御裳の腰に纏かして、筑紫の國に渡りましてぞ、その御子は生れましつる。かれその御子の生れましし地に名づけて、宇美一といふ。またその御裳に纏かしし石は、筑紫の國の伊斗の村二にあり。
また筑紫の末羅縣の玉島の里三に到りまして、その河の邊に御食したまふ時に、四月の上旬なりしを、ここにその河中の磯にいまして、御裳の絲を拔き取り、飯粒を餌にして、その河の年魚を釣りたまひき。その河の名を小河といふ。またその磯の名を勝門比賣といふ。かれ四月の上旬の時、女ども裳の絲を拔き、飯粒を餌にして、年魚釣ること今に至るまで絶えず。
一 福岡縣糟屋郡。
二 同糸島郡。萬葉集卷の五にこの石を詠んだ歌がある。
三 佐賀縣東松浦郡の玉島川。