古事記 02 校註 古事記

88話 古事記 下つ卷 〔市の邊の押齒の王〕

834字 約2分 2013年7月15日 公開

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 これより後、淡海の佐佐紀(ささき)(やま)の君が(おや)一、名は(からふくろ)白さく、「淡海の久多綿(くたわた)蚊屋野(かやの)二に、猪鹿(しし)(さは)にあり。その立てる足は、(すすき)原の如く、指擧(ささ)げたる(つの)は、枯松(からまつ)の如し」とまをしき。この時市の()忍齒(おしは)の王三を相率(あとも)ひて、淡海にいでまして、その野に到りまししかば、おのもおのも(こと)に假宮を作りて、宿りましき。

 ここに明くる旦、いまだ日も出でぬ時に、忍齒の王、(つね)の御心もちて、御馬(みま)に乘りながら、大長谷の王の假宮の傍に到りまして、その大長谷の王子の御伴人(みともびと)に詔りたまはく、「いまだも寤めまさぬか。早く白すべし。夜は既に()けぬ。獵庭(かりには)にいでますべし」とのりたまひて馬を進めて出で行きぬ。ここに大長谷の王の御許(みもと)に侍ふ人ども、「うたて物いふ御子なれば、御心したまへ四。また御身をも堅めたまふべし」とまをしき。すなはち(みそ)の中に(よろひ)()し、弓矢を()ばして、馬に乘りて出で行きて、忽の間に馬より往き(なら)びて五、矢を拔きて、その忍齒の王を射落して、またその(みみ)を切りて、馬|《ぶね》六に入れて、土と等しく埋みき七。

 ここに市の邊の王の王子たち、意祁(おけ)の王、袁祁(をけ)の王八二柱。この亂を聞かして、逃げ去りましき。かれ山代(やましろ)苅羽井(かりはゐ)九に到りまして、御(かれひ)きこしめす時に、()()ける老人來てその御(かれひ)()りき。ここにその二柱の王、「粮は惜まず。然れども(いまし)は誰そ」とのりたまへば、答へて曰さく、「()は山代の豕甘(ゐかひ)一〇なり」とまをしき。かれ玖須婆(くすば)の河一一を逃れ渡りて、針間(はりま)の國一二に至りまし、その國人名は志自牟(しじむ)が家一三に入りまして、身を隱して、馬甘(うまかひ)牛甘(うしかひ)(つか)はえたまひき一四。

一 佐佐紀の山の君の祖先。山の君はカバネ。

二 滋賀縣愛知郡。

三 履中天皇の皇子。

四 變つたものをいう皇子だから注意しなさい。

五 馬上で進んで並んで。

六 馬の食物を入れる箱。

七 土と共に埋めた。

八 後の仁賢天皇と顯宗天皇。

九 京都府相樂郡。

一〇 豚を飼う者。

一一 淀川。

一二 兵庫縣の南部。

一三 兵庫縣美嚢(みなぎ)志染(しじみ)村。

一四 馬や牛を飼う者として使われた。なおこの物語は一八二頁に續く。

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