5話 現行犯
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「まあ、手近かなところ、どこでもいい」
春樹は気が進まないらしい様子をしている女を、引立てて歩いた。
折柄ホテルの玄関は、舞踏会の客が帰るので大混雑だった。彼は興奮した顔をして、人を推し分けつつ、物色していた。
夜会服を着た一人の貴婦人が、自分の自動車を眼で探しながら、夢中になって延び上っているのを見た。春樹はその背後に近づき、ちょっと突当るや、目にも止まらぬ早さで、ダイヤのピンを抜き取り、しっかと握ったままその手を外套のポケットに突込んだ、それと同時に、彼の利腕はぐいと掴まれた。ハッとして振り返ろうとする耳許に、恐ろしく底力のある太い声で、
「君の名誉を思って――、この場は穏かにしてやるが――」
いやに横柄な物云いだ。しかも声の主は薄墨色の女ではないか。春樹は狼狽した。
「神妙にしろ!」
冷めたいものが彼の背筋を走った。女はぐっと睨んで、鋭く、云い放った。
「現行犯だ!」
「エッ!」
があんと頭をひとつ、玄翁で殴打られたような気がした。彼はよろめきながら、女の顔を正面からじッと見据えた。
薄墨色の女は巧みな変装を解いた。
「あっ。鬼山梨!」
女装の人、それはスリ仲間で一番怖れられている、山梨刑事であった。