魂の喘ぎ

4話

922字 約2分 2013年2月11日 公開

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 公正は遺書を読み終ると徐ろに席を起って、

「実はこれから皆様と御一緒に観音の背部を開けようと思うのです。私共はまだ何も手をつけておりません。では――、どうぞ」

 彼を先頭にして客はぞろぞろと従いて行った。まるで墓を発きでもするような気持ちだったので、多少の好奇心はあるものの、誰一人口をきく者はなく、ただ跫音のみ長い廊下を続いていた。

 やがて、公正の指図で家扶と執事は寝観音の後ろへ廻わって封を切り、鍵を開けた。二人が背部へ手をかけようとした時、「ちょッと、待て!」と公正は制し、一同に向って、「皆様、ずっと近よって下さい。只今、観音を開けますから――」と云ってから、両人へ合図の眼を向けた。

 緊張した顔を並べて一同固唾を呑んだ。重苦しい空気が室内に充満した。

 ガチャリ! 背部はぱっと開かれた。

「あらッ」

「まあ!」と呆れたというような声がした。

「やあ、これは――、これは――」公正は呆然として顔が蒼白になった。

「何んだ! 人形じゃないか」編集局長は噛んではき出すように云った。

 美事な人工ミイラを想像していた人々の前に現われたのは、よにも可愛らしい水兵服を着た男の子の人形であった。

 公正は事の意外に面喰って、弁解の言葉もなく、途方に暮れている時、ふと人形の胸に抱いている第二の遺書らしきものを見た。

 彼は救われた、ほっとして、これを手にとり上げ、

「皆様! ここに別な遺書がありました。さあ、これを読んでみましょう」

 さっと封を切った。

「人工ミイラをつくりたいと思ったのですが悲しい事に女一人の手ではどうにも所置が出来ません。それで已むなくあきらめて、この邸内の雑木林――、そこは蛇が出るので家人の近寄らないところです――、の栴檀の樹のもとに穴を掘って埋めてやりました。今頃はもう醜い白骨になっていることでしょう。美しい人工ミイラに出来なかった事はかえすがえすも遺憾です。それでせめてもの心やりに懇意な人形師に頼み、公高の似顔をつくらせ、それを時折眺めに信託にまいり、僅かに慰めていたのです。

藤原公正様藤原冴子」

 公正の命によって、直ちに雑木林の栴檀の根元が掘り返えされ、間もなく公高らしい少年の白骨が現われたと執事によって報告されたのだった。

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