2話 二 天滿館
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二十八日午前、青年會の求めに應じ、その會場に充てたる小學女子部の校舍に赴く。松尾由郎氏開會の辭を述べ、春汀と余と演説す。こゝは、懸崖の上也。もと代官所のあたりたる處なりと聞く。松尾氏兄弟、大西喜三郎氏、江渡富郎氏など余等一行を導いて、天滿館に至る。五戸川の流域の上部を見下し、遙に八甲田の連峯を望む。緑陰に蓆を布いて憩ふ。この地第一の清水と稱せらるゝ天滿水を汲みて茶をる。風凉し、快甚し。
松原宙次郎氏、脚下の人家を指して曰く、これを五戸の下町と稱す。享保年間、鈴木新兵衞といふものあり。この村の水帳を預る。一惡漢、金を竊まむとて、夜その家を燒く。新兵衞出づるに路なし。水帳を地に埋め、腹を其の上に當てて燒死す。身死して、水帳は全きを得たり。代官感じて、之を追賞せりと。われ現に其の地を見わたして、感ます/\深し。士魂あるものと云ふべき哉。
歸路、菊池萬之丞氏の別莊に小憩し、午後、五戸有志者の求めに應じ、其の會場に充てたる專念寺に赴く。五戸村役場助役金澤次郎氏開會の辭を演べ、春汀と余と演説す。來り會せしもの凡そ百人。
松尾氏の家にやどること二夜、百穗は、諸氏の求めに應じて、扇に揮毫し、われ之に題す。五戸にては、扇一朝にして賣り切れとなり、揮毫を乞はむとするも、扇を得るに由なかりし人も多しと聞く。二十九日の朝、松尾由郎氏、江渡又兵衞氏、青年會の幹事諸氏、青年少年の男女學生に、村境まで送られて、われらは終に五戸の地を去りぬ。