39話 西航日録 三九、パリに着す
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午後五時、パリに着す。時まさにパリ・シーズンと称し、市内のホテルたいてい旅客充満して、ほとんど空室なし。したがって旅宿料廉ならず。余はあまたのホテルを照会して、ようやく最廉のものを得たり。すなわち、一昼夜三食を合して、悉皆七フラン(わが二円八十銭)の旅宿料なり。しかるに、諺に「安かろう悪かろう」といえるがごとく、夜中南京虫に攻められ、ほとんど安眠を得ざるには実に閉口せり。夕刻より街上の雑踏、コーヒー店の群集、あたかも先年博覧会のときのごとし。二十二日、本野公使に同伴して市内を見物す。見物中ことにおもしろく感じたるは、無籍の死体を排列して、公衆に示すところなり。二十三日、市外に遊歩して、フランス歴代帝王の廟所に至る。
ロンドン、パリ、ベルリンは実に欧州の三大都にして、本邦人のはじめて欧州に来たりて耳目を驚かすものは、ただこの三都なり。余は、詩をもって各都の繁華の一端を述ぶ。
巴里夜景
巴里街頭夜色清、樹陰深処電灯明、満城人動春如湧、酌月吟花到五更。
(巴里の夜景 巴里の市街は夜の景色も清らかに、樹かげの深いところにも電灯が明るくともっている。市中の人々の動きにも春があらわれ、月に酒をくみ、花に吟詠して楽しみつつ朝に至るのである。)
伯林即事
街灯如昼伯林城、散歩人傾麦酒行、深夜往来声不断、夢余猶聴電車轟。
(伯林即事 街灯はまひるのごとく伯林の市内を照らし、散歩する人々は麦酒をかたむけつつ行く。深夜にもかかわらず人々の往来する音が絶えることなく、早朝の夢の名残に電車のひびきがきこえてくる。)
龍動繁昌記
龍動繁華実足誇、伯林巴里豈能加、牛津街上三春月、海土園中四季花。
(竜動繁昌記 竜動の繁栄は実に誇るに足り、伯林・巴里もこれをしのぐことができようか。牛津街の春の月、海土公園の中の四季の花々もあるのだ。)
二十四日、パリを去るに及び一句を吐きて、
遊ぶなら巴里に越えたる処なしさういふ人は金持の事