5話 西航日録 五、ホンコン上陸、旧知に会う
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十一月二十五日天明、呉淞抜錨。シナ大陸に沿って南進し、二十六日台湾海峡に入る。終日曇晴、風波やや高し。二十七日快晴、暑気にわかに加わる。一昨日まで毎室暖炉を待ちしも、今日より食後、アイスクリームを呼ぶに至る。霜風凍雨の時節このことあるは、本邦人の怪しむところならん。二十八日未明、ホンコンに着す。また快晴なり。暑気、わが九月彼岸ごろに似たり。
ホンコンは東洋第一の開港場にして、家屋の広壮、市街の繁盛、ほとんどサンフランシスコに譲らず。ただその地、山に踞し海に臨み、極めて狭隘なるを遺憾とす。午前上陸、桐野領事および『華字日報』主筆潘飛声に面会す。ともに余が旧知なり。なかんずく潘氏は、十五年前ドイツ・ベルリン東洋学校の聘に応じて、シナ学教授の職にあり。余、ときに再四相会して文林の交をなせり。爾来久しく消息を絶し、図らずもこの地において再会せるは、実に奇縁というべし。氏、余に送るに写影および著書をもってす。その中に『羅浮紀游』一帙あり。その詩中に「焚香対幽竹、猿鶴共一席、月来百花醒、雲睡万壑寂」(香を焚いて静かな竹林にむかえば、風流を解する猿と鶴とがともにこの席にあり、月のぼればもろもろの花がめざめるがごとくほのかに浮かび、雲はねむるがごとくしてすべての谷は静まりかえっている)等の句、もって誦すべし。夜に入りて月まさにくらし。満天星近く懸かり、港内の灯光上下点々、あたかも蛍火を見るがごとき観あり。今夕、福島将軍入港の報あれども、帰船後にして相会するを得ず。二十九日暁天解纜、西南に向かいて進行す。船客みな夏装をなし、食時扇風を用う。