南半球五万哩

54話 第七、南米行大西洋横断日記 五四、ポルトガル首府リスボンの実況

1,037字 約2分 2011年10月25日 公開

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 二日、晴れ。午前七時、船すでにリスボン湾に入る。朝食の終わるを待ちて船客一同上陸す。市街は人口三十万余と称し、その区域数マイルにまたがる。地勢は一帯の長丘にして、前に海峡を横たえ、対岸に陸地を控え、すこぶる風景に富む。家屋は街路とともに高低ありて、四階、五階の楼多く、壁色はあるいは白く、あるいは赤く、あるいは青黄、あるいは紋様をなし、遠見はなはだ美なるがごときも、近く接見すれば決して美ならず。室内は不潔の家多く、路上には敝衣を着たる貧民多く、ロンドン東部の窮民窟を見るがごとし。街路は一般に狭隘にして、電鉄縦横に通じ、電車織るがごときも、その行人を傷害せざるは僥倖なり。衣食住ともに不潔なるの結果、異様の臭気を放つ。あたかもシナ市街に入るがごとき思いをなさしむ。

 スペインおよびポルトガル人は髪黒く、目また黒色を帯び、東洋人に似たる点あり。ただ顔色の白きだけは異なるところなり。街上の婦人を見るに、頭に風呂布をかぶり、その上に物貨をいただき、前に前垂れをしめて来往す。そのありさまもまた東洋に同じ。露店には大傘を立てかけ、その下に果物、食品等を販売するも、また東洋式なり。要するに、その市街、その風俗および商店は、西洋風にインドおよびシナ風を混和せるものと見て可なり。物価は一般に安きも、外国人に対しては廉ならず。市外に接したる所に、樹木の繁茂せるあるも、その多くは熱帯樹にして、熱帯圏内の国に入るがごとし。気候は炎威強く、わが三伏の時に異ならず。しかして日光が敷石に反射して、ほとんど行人をしてくらませしめんとす。昔時にありては、リスボン市街は世界中に壮美をもってその名高かりしが、今これを見るに、欧州首府中の最下等に落ち去る。これ、リスボンがかく退歩せるにあらずして、ほかの市街の大いに発達せるによる。リスボン偶成七絶一首あり。

千重屋向一湾開、狭路鎖風風不来、九月葡京猶苦熱、樹陰傾尽納涼杯。

(いくえにも重なるような家屋が湾に向かって建ち、せまい街路の故か風もとめられて吹き抜けることはない。九月の葡京(リスボン)はなお熱さに苦しみ、樹かげに身をよせて納涼の杯をかたむけたのであった。)

 また、五絶一首および和歌一首を得たり。

九月葡京路、秋来暑未除、納涼何処好、熱帯樹陰廬。

(九月の葡京(リスボン)の道は、秋の季節にもかかわらず暑熱はまだ続いている。涼を求めるにはいったいどこがよいのか、それは熱帯樹のかげの粗末な草庵がよいのである。)

リスボンの灯台今は暗けれど、昔しは四方の海を照らせり

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