婦人問題解決の急務

5話 五 婦人問題は吃緊にして重要なる大問題なり

3,010字 約6分 2020年8月28日 公開

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 人類は本来男女同数なるべく、またならざるべからず。多少の差あり、出産の率よりいえば女子の方が男子よりやや多いけれども、女子は多くは幼時に死ぬから自ずから平均がとれ、男女の数には大差無かるべきはずである。(しか)るに外国では、如何(いか)にせん女子の方が多いというから、人類にはその間になんらかの欠陥あることと思う。更に人数を以て女子を男子よりも多からしむる原因は、近来大規模の工業が起り、また鉱山が開掘され、これらの危険なる事業には独り男子のみが従事するからである。即ち米国辺の鉱山では年々無数の人が死傷し、義手義足の()は、米国に於て最も多く見受ける。従って義手義足の製作術に至っては、米国はその精巧世界に冠たり。欧州諸国もある程度までその術が進歩したとはいえ、到底米国に及ばぬ。独逸(ドイツ)の如き機械国でも、なおこの義手義足だけは輸入を米国に仰ぐという有様である。以てその然るゆえんを推知し得よう。また急速に鉄道を敷設しおるが、これにも被害が(おびただ)しい。(しか)して女子はこの種の危険性を()べる事業には従わぬから、女子の死傷は無い。海外移住にも男子が多く()で、女子は少ないから、勢い本国には女子のみ多く残るゆえんである。英国の如きはこの大戦前に既に、女子の数の男子に超過すること百三、四十万と称せられていた。北米合衆国、その他の殖民地は除外例として、その他の国々もまた皆女子の数が男子よりも多い。然るにこの男女の人口の不平均を更に大ならしむべくこのたびの大戦争が現れ、急劇なる変化を来した。これによって欧州諸国の壮年が如何(いか)ほど死んだか精細には知らぬけれども、あるいは一千万以上の死者を出すに至るかも知れぬ。現に丁抹(デンマーク)コッペンハーゲンの戦争研究協会公報を見ると、開戦以来満二ヵ年に於ける双方の戦死者のみでも四百六十三万一千を算している。しかしこれには日独戦争の戦死者もまた双方の病死者も計算されていないし、またその当時より既に一ヵ年を経過していることであるから、今日では全体で約一千万を失っているに相違ないと思う。(けだ)し近来の戦争は多くは塹壕(ざんごう)戦である。その塹壕は従来の如き、小規模で浅く掘り上げたる土を以て身を《かく》すだけの(どて)を築くとは大いに異なり、地中に深く(もぐら)の如く穴を掘り一丈も二丈も下に潜むというから、かくの如き生活の人体に影響するところ大なるべく、病死者は従って多くはないかと思う。露のブロッホはかつて書を著し、兵器の進歩は人を殺すこと多く、ついに戦争を不可能ならしむるに至るべしと説いたが、かのその書を著した当時よりも各種の兵器は更に長足の進歩を為しているから、人を殺すの率は驚くべく増大したけれども、この大戦は未だ終結期を予想し難き有様である。もとより敵味方共に、幾千の死傷を出しているが、互いに秘密にし合っているから分らぬけれども、とにかく三年以上も現在の如き大規模の戦争をなすに於ては、その死者を出すことも必ず大ならざるを得ざることと思う。(ここ)に於てか女子は交戦列国共に皆不自然に多数となるに相違ない。

 更に一転して職業の上から考うるに、従来でも欧州諸国では女子が各種の職業に従事した英国の如きも、戦前女子の生産業に従事せる者は、十五歳以上の者だけでも約四百万を算し、まさに総数の三割四分を占めていたのであるが、戦後男子は皆兵伍に入ったために、農工業共に人不足でこれを補うべく女子の労力を要すること著しく、今日では農業でも、製造業でも、鉱山でも、鉄道でも、皆女子が関係している。女子の労銀は男子より安く、一週間男子が二十円ならば女子は十円で(よろ)しいという割合である。勿論(もちろん)女子にしてもその業務に習熟すれば、男子に近き賃銀を得るに至るのであるけれども、大体に於て男子より(やす)く、()かも器械を使用するに於てはその能率に多大の優劣はないのであるから、なんとしても資本家にとっては女子を雇う方が利益である。(ここ)に於てか、男子がこの大戦後元の職業に復帰せんと欲して戻って来ても、一たび女子に占有された職業を容易に回収する事は(かた)かるべく、ために女子もまた経済上に於ける大勢力となり、ここに男女の権利に対する一大争議が起るに相違ない。これは単純なる問題でなく、関するところ甚だ大なる重要なる社会問題である。女子の地位が社会上に増大すると同時に、これを立法上に如何(いか)に調和すべきかの問題が次いで起って来る。

 婦人問題に最も大切なるものはその結婚であって、男女の数が相等しからず、その率に大なる相違があると、夫の持てぬ婦人の増加するは自然の数である。この夫を持ち得ぬ婦人が実に社会のバチルスとなって風俗を腐蝕せしめる。現に独逸(ドイツ)娘子軍(じょうしぐん)は、紐育(ニューヨーク)市俄古(シカゴ)という如き北米の大都市に遠征して跳梁(ちょうりょう)を極めており、英国辺でも等しくこの娘子軍の累を受けているが、この(わざわ)いは何時(いつ)までも外よりのみは来らず、男女の人口率の著しき不平均はついに内よりこの禍いを醸すに至る。その結果は必ず怖るべき花柳病(かりゅうびょう)となって現れるが、現在では英国の如きは、花柳病の最も少なきを以て称せられているけれども、これが果して永続出来るか否かが問題である。なんとなればこの大戦後は、女子の数の男子に超ゆること従来に数倍するに至るからである。一歩を誤ると、かくの如くしてこれまで進歩した文明も、根本より転覆されるかも知れぬ。仏の人口の如きはある部分には全く繁殖が止まり、英国の如きも都市の人口繁殖率は著しく鈍化し、あるところには全く止っている。これに反して、独逸(ドイツ)は最も優れたる繁殖率を有すといわれていたに拘わらず、伯林(ベルリン)の如き大都市ではすでに繁殖が止まっている。北米のニュー・エングランド地方の都会でも繁殖は止っている。(しか)して人体の発育が漸次に悪化し、全体の調和のとれぬものが漸増して来る。肉体精神共に円満なる発達を要するにかくの如きものが到底今日の文明を伝えて、(さら)にこれを拡張し得べき道理がない。これは遺伝進化の理よりいうと、婚姻に根蔕(こんたい)するは争うべからず。即ち正当ならざる婚姻の次第に行われつつあるを立証する。(いな)近次欧州諸国に於ては婚姻を喜ばざる悪傾向がある。独身ものが増加しつつある。出産の減少はこれがためか、あるいは別に人為の罪悪によるか、抑々(そもそも)また両者共に行わるるがためか、研究すれば必ず大なる原因を発見し得るであろう。近来は二児主義とか、三児主義などという如きものが黙認され、学術の進歩に依り巧みに妊娠を避けて、ただ本能なる情欲をば遺憾なく遂げ、以て人生の幸福とするが如き傾向に進んでいるのであるが、かくの如きは言うまでもなく天理に反抗を試みる明白なる罪悪である。彼の独身生活という如きも、一見俗念の外に超越しおる如くであるけれども、その実隠微に働く情欲をば制し得ず、あるいは却ってこの情欲を放縦(ほうじゅう)ならしめんがために好んで独居するものも多いのであるから、風俗を乱すの禍因はむしろこの独身者によって多く醸出さるるものである。かかる両性間に生れた子供が、即ち不完全なる体質を有するは争われざる事で、好しや一歩を譲って、五体は完備するとしても、必ずその精神上に、不純の痕跡を印するを免れ難き故に、これが長じて社会生活に加わると一般の風俗を悪化する。(しか)して婦人の激増はついにこの傾向を助長せずんば()まざるが故に、社会の粛清を(はか)り純潔を愛し、兼ねて人類の進化と文明の発展とを(こいねが)うものは、この婦人問題を等閑視することは出来ぬ。

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