4話 〔文明運動の新兵を〕
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我輩はもう既に五十年続けている。どうか早く新兵が来て更代してくれんと困る。如何に百二十五歳を主張しても、百二十五歳まで我輩を働かすのは老人虐待である。個人の発達も安逸にして得られるものでない。努力しなければならぬ。戦争は更代せんといかぬ。段々諸君が更代してくれんと困る。もう我輩は五十年間文明運動を続けている。然るに世に俗弊は多い。敵は多勢、切に援兵を求める。といえば、我輩甚だ弱音を吐くようであるが、そうではない。気運が来っている。国民自覚の時は来れり。大勢は個人の惰眠に大なる鞭を打っている。ここに於て文明的運動愈々急なりと思う。新聞や雑誌での一知半解はいかぬ。何でも書物を大切に学び、徒に多く論ずるよりも、少なくして正しく論ずれば宜い。一日に一時間か二時間を費やせば十分の知識を得られる。今は知識競争の時代である。如何に武蔵坊弁慶、加藤清正のような豪傑でも、智慧がなければ子供にやられる。智慧を仕入れるのが必要である。実に経済的に僅かの時間で、数世紀掛って苦しんで今日の文明を拵えたものを知ることが出来るのは、日本は後から興ったために仕合せである。仕合せなためにややもすればずるけて安逸に流れる。これではならぬ。何でも努力しなければならぬ。学んだら更に発見する。必ず我輩は疑いなく往けると思う。もはや世界の最大なる文明強国を敵としている。泥棒を捕えて縄を綯うようだが、なかなか油断してはいかぬ。敵国外患なきものは国常に滅ぶ。敵国が来るから、これから国民が努力して一生懸命奮発する。その意味に於て大日本文明協会の事業は決して全部とは言わぬが、文明的運動に疑いなく利益を与えるところの一なりと我輩は断言して憚らぬのである。
我輩のは概括した議論であるが、眼前行わせられる御大典を思い起し、それと同時に神武の事業を思い起す。これが王政を神武の古に復する明治維新の精神である。日本は三千年の古い帝国なりといえども、明治の気運は全く新たなり。ただ命維れ新たなり。世界的に活動を要する。欧州の大戦も早晩平和は来る。その時には平和会議に日本も、英国、仏蘭西、露西亜、独逸、即ち交戦国相互の間に同一の地位を保って参列する権利を有することとなっている。疑いなくこのたびの戦争に依って日本が世界的強国となったことは、この一事を以て証拠立てることが出来る。これで永久の平和が来るかといえばそうでない。喬木烈風多し。日本は段々大木となった。小さい中は宜かったが、大きくなったら大きな風が吹く。この風に抗抵する力を養わなければならぬ。この力を培養するのが文明的運動である。今日は世界的に文明運動を営む必要を感ずること最も切なりと思うのである。どうか諸君も共に、この文明的運動の新手となって我々の働きに一臂の力を添えられんことを我輩は希望して已まぬ(拍手大喝采)。