1話 第一、周遊の目的および太平洋紀行の部 第一、奮然一起して遠洋万里の途に上る
読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
読み上げの速さ
組み方
政教子、一日机により新紙を読むに、天下の論鋒ようやく進みて政教の版図に入り、舌戦、筆闘、壇上やや穏やかならざる事情あるを見る。立ちて社会の風潮をうかがえば、政海の波ようやく高く、教天の光ために暗きを覚ゆ。政教子すなわちおもえらく、これ、あに書窓に閑座するのときならんや。けだし政教子の人たる、春来たれば野外に鶯花をたずね、秋来たれば窓間に風月を弄し、その心つねに真理を友とし、その口みだりに世事を談ぜずといえども、あえて国家のために思うところなきにあらず。一変一動に際会するごとに、いまだかつてその国を思わざるはあらず。いわゆる江湖の遠きにおりて、その国を憂うるものなり。この憂国の情、鬱々として胸襟の間に積滞し、一結して悶を成し、再結して病を成さんとす。その平常、春花に詠じ秋月に吟ずるがごとき、ただこの病悶をいやせんとするにほかならず。今やわが国、政教の関係ようやく密に、政教の論場ようやくやかましく、まさにその影響を一国独立の上に及ぼさんとするの勢いあり。政教子ここにおいて、奮然一起して遠洋万里の途に上り、欧米政教の大勢を一見せんとするに至りしなり。