欧米各国 政教日記

289話 第一〇、インド洋帰行の部 第二八九、各国みな独立の風に富むこと

1,297字 約3分 2012年10月21日 公開

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 政教子の今回の行や、まず米国に至り、ついで英国に入り、この諸邦の一個人の富と一国の富と、ともにはるかに日本の上に出ずるを見、また一個人の力と一国の力と、ともにわが国の比にあらざるを知れり。つぎにフランス、イタリア、オーストリア、ドイツを巡遊して、その人民の節倹を守り勉強して怠らざるを見て、かの諸国の富と力は、決して偶然に起こりたるにあらざるを知るに至れり。しかして、政教子の最も驚きかつ感じたるものは、各国人民みな独立の精神を有し独立の気風に富むこれなり。人民みな独立の精神・思想を有するをもって、各国みな独立の学問あり、独立の事業あり、独立の組織あり、独立の目的あり、独立の風習あり、独立の礼式あり、独立の宗教あり。その独立とはなんぞや。曰く、フランスは事々物々の上にフランス固有の風を存して英国の風に異なり、英国は内外上下の間に英国固有の風を存して米国の風に異なるをいう。かくのごとく各国みな独立の風を有するは、その心中に一種独立の思想を有するにより、その独立の思想の発達せるは、またこの独立の風あるによるなり。

 顧みてわが国の事情を考うれば、日本従来の独立の学問も事業も組織も目的も風習も礼式も、みなすでにその独立を失い、今や西洋の事々物々次第にわが民間に行われて、人その事物の変化とともに、最も貴重なる独立の精神そのものをあわせて失わんとす。ただに日本人固有の精神を失うのみならず、西洋の精神に変ぜんとす。ただに西洋の精神に変ずるのみならず、イギリスを学ぶものはイギリスの精神に変じ、ドイツを慕うものはドイツの精神に変じ、アメリカに遊ぶものはアメリカの精神に変ぜんとす。この勢いをもって進むときは、日本人は到底一定の主義なく一致の運動なく、民心離散し上下相和せず、その極み国家の独立を失うに至りてやむよりほかなし。もし、この際に当たりて民心を結合し独立を維持せんと欲せば、いかなる方法を用いてしかるべきや。政教子曰く、けだしその方法は、日本固有の言語、歴史、宗教およびその他、日本固有の風俗習慣を改良保存するよりほかなし。そもそも一国の独立するゆえんのものは、事物変化の中心に当たりて、一脈の精神の絡々として持続するところなかるべからず。もしその精神、外形上の事物とともに変化するときは、事物その独立を失うと同時に、精神またその独立を失わざるべからず。かつその一脈の精神を持続せんと欲せば、精神と直接の関係を有する諸学諸術を保存せざるべからざるはもちろんなり。

 これをもって西洋各国、みなその国固有の学問を愛重し芸術を保護し、別して言語、宗教のごときは、つとめてその国固有のものを保存せんとす。これをもって、フランスにてはその諸学術みなフランス独立の風を存し、英国にては英国独立の風を存し、ドイツはドイツ、ロシアはロシア、おのおのその国独立の風あり。西洋の強国にして、なおかくのごとし。いわんやわが国のごとき、その富といいその力といい、ともに西洋諸国にしかざるものにおいてをや。ゆえに、その国固有の諸学諸術を保存してその国独立の気風を養成すること、最も今日の急務といわざるべからず。

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