37話 第二、米国ならびに大西洋紀行の部 第三七、米国の宗教の性質
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政教子曰く、米国の宗教は満嚢自由の空気をもって吸入せるものなり、全身自由の精神をもって注射せるものなり。そもそも米国人は、そのはじめ英国より渡航せるものにして、当時英国政府は国教を組織し、君主をもってその首長となし、人民に宗教の自由を許さざりし。しかるに人民中その主義に反対せるものありて、信教の自由、教会の独立を唱え、父母の国を辞して遠くアメリカに渡り、不毛の広野に植民を開けり。その子孫ようやく繁殖して邑を成し都を成し、ついに英国政府に抗して独立を天下に公布するに至れり。しかして、その独立戦争の起こりし原因は、宗教上の旧怨、間接に相助けしや疑いをいれず。かつその独立後、共和政体を組織するに至りしも、米国人の従来宗教の自由、教会の独立を唱えたる精神より起こりしを知らざるべからず。なんとなれば、一方に自由の思想あれば、その思想他方に向かって発するは自然の理なればなり。
これを史上に考うるに、近古新教の乱ひとたび起こり、ルターの徒、ローマ法王の権勢に抗して宗教の独立を唱えてより以来、その自由の思想は政治上に及ぼし、各国に革命の乱を生ずるに至れり。これ、他なし。政治と宗教はその性質を異にするも人の思想同一なれば、政治上得るところの独立の精神は、宗教上に発して宗教の自由を唱え、宗教上得るところの独立の思想は、政治上に及ぼして政治の自由を唱うるに至ればなり。
故をもって、政治と宗教はたいてい同一の組織を有し、君主政治の組織の下には、君主政治に相応したる宗教組織あり、共和政治の組織の下には、共和政治に相応したる宗教組織あり。今、合衆国はその政体自由共和にして、その各連邦ほとんど独立の組織を有す。しかして、その国の宗教また自由独立の組織を有し、各教会独立して各寺の法律を制定し、これを総裁統轄する本山なく、また教正なし。ただ、その宗派の連合により年会を開き、各寺の名代人相会して、その宗一般に関する事項を議定するものあり。その組織、あたかも合衆国の政体と異なることなし。ゆえに余曰く、米国の宗教は満嚢自由の空気をもって吸入せるものなり、満身独立の精神をもって注射するものなりと。
果たしてしからば、米国の宗教のわが国に入るは、他日政治上の大不利を醸成するに至るや必然なり。現今わが国にあるヤソ新教は、たいていみな米国より来たるものなり。しかして、その教会の組織は全く米国の組織を模写せるものにして、自由共和の主義によりて成立せるものなり。もし、この宗教ひとたび人心中に入るときは、知らず識らずの間に共和自由の思想を養成し、その思想発して政治上の共和自由を唱うるに至るを計るべからず。これ、我が輩が今よりその結果のいかんを憂慮するところなり。