42話 第二、米国ならびに大西洋紀行の部 第四二、人民の正直
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米国中の都府には、往々番人なくして新聞を街上に売るものあり。これを買う人は、まずその代価を銭箱の中に投入して一紙を持ち去り、だれも盗み去るものなし。料理屋に入りて食事をなすものあり、意に任じて数品を食し終わりて入り口の勘定所に至り、自らその食するところのものを告げ、相当の代価を払うの例なれば、言をはむも自在なり。しかるに、人みな告ぐるにその実をもってすという。人の正直なること、かくのごとし。政教子曰く、これ、その人はじめより正直なるにあらず、数世数百年回、社会の事情によりて淘汰せられたる結果なり。世上に伝うるところの「正直に過ぎたる政略なし」といえる諺は、数世間経験の末発見したる規則なり。
今、西洋社会は家屋の建築いたって堅牢にして、その防御またいたって厳密なれば、知らず識らず人をして窃盗の念を絶たしむるに至り、また商法上ひとたび世間に信を失えば、ふたたび社会に立つことあたわざるをもって、その勢い自然に人をして信義を守るの必要を知らしむ。かくのごとき経験、注意、数回相重なり数世相伝わり、風をなし俗をなし遺伝性をなし、ついに人をして生まれながら窃盗・詐偽の念を去り、正直朴実ならしむるなり。しかれども、その国全く盗賊なきにあらず。われ聞く、ロッキー山間には盗賊隊を成し、汽車の線路を遮り、乗客の財宝を奪い取るがごときことあるは、しばしば新紙上に見るところなり。