松の葉

3話

1,459字 約3分 2011年10月5日 公開

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 手際(てぎは)なもので、(あふ)(うち)に、じり/\と團子(だんご)(いろ)づくのを、十四五本(じふしごほん)(すく)()りに、一掴(ひとつか)み、小口(こぐち)から(くし)()つて、(かたはら)醤油(したぢ)(どんぶり)へ、どぶりと()けて、(さつ)(さば)いて、すらりと七輪(しちりん)(また)()げる。()ぐに(のこ)つたのに醤油(したぢ)をつける。(ほとん)(くう)で、(やつこ)は、()(あひだ)(れい)の、()をきよろつかせる、(はな)をひこつかせる、(くちびる)をへし()げる。石頭(いしあたま)()る、()ごすりをする、傍見(わきみ)をする。……幾干(いくら)小遣(こづかひ)があると()えて、時々(とき/″\)前垂(まへだれ)隙間(すきま)から、懷中(くわいちう)覗込(のぞきこ)んで、ニヤリと()る。

 いけずがキビ/\した(こと)は!……(わたし)何故(なぜ)(うれ)しかつた。

 (きやく)(わたし)のほかに三人(さんにん)あつた。()三人(さんにん)は、親子(おやこ)づれで、(こゝの)ツばかりの、(かすり)羽織(はおり)(おな)衣服(きもの)()(おとな)しらしい(をとこ)()。――見習(みなら)へ、(やつこ)、と背中(せなか)(つゝ)いて()りたいほどな、人柄(ひとがら)なもので。

 母親(はゝおや)は五十ばかり、黒地(くろぢ)のコートに目立(めだ)たない襟卷(えりまき)して、質素(じみ)服姿(みなり)だけれど、ゆつたりとして(しか)氣輕(きがる)さうな風采(とりなり)古風(こふう)な、(うす)い、(ちひ)さな(まげ)()つたのが、唐銅(からかね)(おほき)青光(あをびか)りのする轆轤(ろくろ)井戸繩(ゐどなは)が、づつしり……石築(いしづき)掘井戸(ほりゐど)。それが、(ひさし)(した)にあの(かたはら)床几(しやうぎ)に、飛石(とびいし)石燈籠(いしどうろう)のすつきりした、綺麗(きれい)()いて(ちり)()めず廣々(ひろ/″\)した、()團子屋(だんごや)奧庭(おくには)背後(うしろ)にして、(ひざ)をふつくりと、きちんと(すわ)つて、(つむり)置手拭(おきてぬぐひ)をしながら、女持(をんなもち)銀煙管(ぎんぎせる)で、時々(とき/″\)(には)()し、(そら)(くも)をさしなどして、(なに)(はな)しながら、(しづか)煙草(たばこ)(くゆ)らす。

 對向(さしむか)ひに、一寸(ちよいと)(せな)(ひね)つた、片手(かたて)敷辷(しきすべ)らした座蒲團(ざぶとん)(はし)()いて、すらりと半身(はんしん)(つま)内掻(うちがい)土間(どま)(そろ)へた、()二十(はたち)()えた、白足袋(しろたび)で、これも勝色(かついろ)()いコートを姿(すがた)よく()たが、(おとうと)(よこ)にして、母樣(おつかさん)(まへ)であるから、(なん)見得(みえ)も、色氣(いろけ)もなう、鼻筋(はなすぢ)(とほ)つた、生際(はえぎは)のすつきりした、()(きつ)として、(まゆ)(やさ)しい、お小姓(こしやう)だちの(いろ)(しろ)い、面長(おもなが)なのを横顏(よこがほ)で、――團子(だんご)一串(ひとくし)小指(こゆび)()ねて、(くちびる)()てたのが、錦繪(にしきゑ)()いた()がけの美人(びじん)にそつくりで、微醉(ほろゑひ)のそれ(しや)が、くろもじを()んだより婀娜(あだ)ツぽい。(かみ)束髮(そくはつ)に、(しろ)いリボンを(おほ)きく()けたが、美子(みいこ)()いちやんも()なる(をり)から、當人(たうにん)(なに)()もなしに()とゝもに押移(おしうつ)つたものらしい。が、(てん)()せる下町(したまち)娘風(むすめふう)は、(くだん)(かみ)(ひさし)()えぬ。……何處(どこ)ともなしに()(うち)に、(つぶ)しの島田(しまだ)下村(しもむら)丈長(たけなが)で、(しろ)のリボンが(なん)となく、鼈甲(べつかふ)突通(つきとほ)しを、しのぎで()いたと(しの)ばれる。

 ()(むすめ)も、白地(しろぢ)手拭(てぬぐひ)を、一寸(ちよいと)(たゝ)んで、(かみ)(うへ)()せて()る、(びん)(いろ)()(まさ)つて、ために一入(ひとしほ)(ゆか)しかつた。

 が、()(はず)で、いけずな(やつ)が、燒團子(やきだんご)のばた/\で、七輪(しちりん)(じよう)()ばすこと、名所(めいしよ)とはいひがたく(ゆき)(ごと)しであつたから。

 母樣(おつかさん)が、(ひざ)(はじ)いて、ずらりと、ずらすやうに(また)いで()りると、氣輕(きがる)にてく/\と土間(どま)()た。

(それ)では、土産(みやげ)(つゝみ)()うぞ。」と(やつこ)()ふ。

「へーい。」

 すとんきような(こゑ)()し、《ばつた》(おさ)へたり、と()()つきで、團扇(うちは)(はさ)んで、仰向(あふむ)いた。

二十錢(にじつせん)のを(ひと)ツ、十五錢(じふごせん)のと、十錢(じつせん)のと都合(つがふ)三包(みつゝみ)だよ。」

(あんこ)ならお手間(てま)()れますツ。」

 と、けろりとして、ソレ、ばた/\ばた、ばツばツばツ。

(みんな)附燒(つけやき)(はう)さ。」

「へーい。」

「ぢや、(わか)つたかね。」

 と一寸(ちよいと)(まへ)(とほ)(とき)(わたし)會釋(ゑしやく)して床几(しやうぎ)(かへ)つた。

 いしくも(まを)された。……(のこ)らずつけ(やき)のお(あつら)へは有難(ありがた)い、と(おも)ふと、()(はう)()のふちを(あか)くしながら、《あん》こばかりは(ちつ)(くすぐつた)い。

 また()の《あん》がかりの三人(さんにん)の、すくつて、()いて、(ころ)がして、(ひと)(ひね)つてツイと()るが、()(そろ)へ、(ゆび)(そろ)へて、ト()めて()(とき)(むね)()ゑる(ところ)まで、一樣(いちやう)(あざや)かなものである。が、(きやく)()たうが()つまいが、一向(いつかう)頓着(とんぢやく)なく、此方(こつち)此方(こつち)、と(すま)した工合(ぐあひ)が、徳川家時代(とくがはけじだい)から(あぢ)(かは)らぬ(たの)もしさであらう。

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