手際なもので、煽ぐ内に、じり/\と團子の色づくのを、十四五本掬ひ取りに、一掴み、小口から串を取つて、傍に醤油の丼へ、どぶりと浸けて、颯と捌いて、すらりと七輪へ又投げる。直ぐに殘つたのに醤油をつける。殆ど空で、奴は、此の間に例の、目をきよろつかせる、鼻をひこつかせる、唇をへし曲げる。石頭を掉る、背ごすりをする、傍見をする。……幾干か小遣があると見えて、時々前垂の隙間から、懷中を覗込んで、ニヤリと遣る。
いけずがキビ/\した事は!……私は何故か嬉しかつた。
客は私のほかに三人あつた。其の三人は、親子づれで、九ツばかりの、絣の羽織に同じ衣服を着た優しらしい男の兒。――見習へ、奴、と背中を突いて遣りたいほどな、人柄なもので。
母親は五十ばかり、黒地のコートに目立たない襟卷して、質素な服姿だけれど、ゆつたりとして然も氣輕さうな風采。古風な、薄い、小さな髷に結つたのが、唐銅の大な青光りのする轆轤に井戸繩が、づつしり……石築の掘井戸。それが、廂の下にあの傍の床几に、飛石、石燈籠のすつきりした、綺麗に掃いて塵も留めず廣々した、此の團子屋の奧庭を背後にして、膝をふつくりと、きちんと坐つて、頭に置手拭をしながら、女持の銀煙管で、時々、庭を指し、空の雲をさしなどして、何か話しながら、靜に煙草を燻らす。
對向ひに、一寸背を捻つた、片手を敷辷らした座蒲團の端に支いて、すらりと半身、褄を内掻に土間に揃へた、九か二十と見えた、白足袋で、これも勝色の濃いコートを姿よく着たが、弟を横にして、母樣の前であるから、何の見得も、色氣もなう、鼻筋の通つた、生際のすつきりした、目の屹として、眉の柔しい、お小姓だちの色の白い、面長なのを横顏で、――團子を一串小指を撥ねて、唇に當てたのが、錦繪に描いた野がけの美人にそつくりで、微醉のそれ者が、くろもじを噛んだより婀娜ツぽい。髮は束髮に、白いリボンを大きく掛けたが、美子も喜いちやんも爲なる折から、當人何の氣もなしに世とゝもに押移つたものらしい。が、天の爲せる下町の娘風は、件の髮が廂に見えぬ。……何處ともなしに見る内に、潰しの島田に下村の丈長で、白のリボンが何となく、鼈甲の突通しを、しのぎで卷いたと偲ばれる。
此の娘も、白地の手拭を、一寸疊んで、髮の上に載せて居る、鬢の色は尚ほ勝つて、ために一入床しかつた。
が、其の筈で、いけずな奴が、燒團子のばた/\で、七輪の尉を飛ばすこと、名所とはいひがたく雪の如しであつたから。
母樣が、膝を彈いて、ずらりと、ずらすやうに跨いで下りると、氣輕にてく/\と土間を來た。
「其では、土産の包を何うぞ。」と奴に言ふ。
「へーい。」
すとんきような聲を出し、《ばつた》壓へたり、と云ふ手つきで、團扇を挾んで、仰向いた。
「二十錢のを一ツ、十五錢のと、十錢のと都合三包だよ。」
「子ならお手間が取れますツ。」
と、けろりとして、ソレ、ばた/\ばた、ばツばツばツ。
「皆附燒の方さ。」
「へーい。」
「ぢや、分つたかね。」
と一寸前を通る時、私に會釋して床几へ返つた。
いしくも申された。……殘らずつけ燒のお誂へは有難い、と思ふと、此の方目のふちを赤くしながら、《あん》こばかりは些と擽い。
また其の《あん》がかりの三人の、すくつて、引いて、轉がして、一ツ捻つてツイと遣るが、手を揃へ、指を揃へて、ト撓めて刺す時、胸を据ゑる處まで、一樣に鮮かなものである。が、客が待たうが待つまいが、一向に頓着なく、此方は此方、と澄した工合が、徳川家時代から味の變らぬ頼もしさであらう。