松の葉

4話

1,360字 約3分 2011年10月5日 公開

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 (ところ)へ、カタ/\と(つめ)たさうな下駄(げた)(おと)。……(はゝ)ぢや(びと)のを(わざ)穿()いて()たらしい、可愛(かはい)素足(すあし)三倍(さんばい)ほどな、(おほき)塗下駄(ぬりげた)()つけるやうに、トンと土間(どま)(はひ)つて()て、七輪(しちりん)(よこ)()つた、十一二だけれども、(こゝの)ツぐらゐな、小造(こづく)りな、(ちひ)さな江戸(えど)(ねえ)さんがある。(しま)羽織(はおり)筒袖(つゝそで)(ほそ)()た、(わき)あけの(くち)へ、(かひな)()げて、(ちつ)(さむ)いと()つた(てい)に、兩手(りやうて)突込(つツこ)み、ふりの()いた(ところ)から、(あか)前垂(まへだれ)(ひも)()える。其處(そこ)風呂敷(ふろしき)(ひぢ)なりに引挾(ひつぱさ)んだ、(いろ)淺黒(あさぐろ)い、()(はり)のある、きりゝとした(かほ)の、(びん)引緊(ひきし)めて、おたばこ(ぼん)はまた(めづら)しい。……

五錢(ごせん)頂戴(ちやうだい)。」

「へーい。」

「さあ、」

 と片手(かたて)()して、(やつこ)風呂敷(ふろしき)(つき)つけると、()をくるりと天井(てんじやう)(のぞ)きで、

(あんこ)ならお手間(てま)()れますツ。」

「あら、()いたのだわよ、(にい)さん。」

 とすつきり()つた。

 (やつこ)一本(いつぽん)(まゐ)つた(てい)で、(くび)(すく)め、(くち)をゆがめて、《あん》をつける三人(さんにん)(はう)を、外方(そつぱう)にして、一人(ひとり)(わら)つて、

「へーい。」

 と七輪(しちりん)(うへ)見計(みはか)らひ、風呂敷(ふろしき)受取(うけと)つて、屋臺(やたい)()ち、大皿(おほざら)からぶツ/\と(けむり)()つ、()きたてのを、横目(よこめ)(にら)んで、(たけ)(かは)(しご)きを()れる、と飜然(ひらり)(かは)()ねる(うへ)へ、ぐいと(しり)()ねに布巾(ふきん)()ける。

 障子(しやうじ)(そと)へすつと()て、ひとり(つゑ)()いて()つた(おきな)がある。

 白木綿(しろもめん)布子(ぬのこ)(えり)黄色(きいろ)にヤケたのに、單衣(ひとへ)らしい、(おな)(しろ)襦袢(じゆばん)(かさ)ね、石持(こくもち)で、やうかん(いろ)黒木綿(くろもめん)羽織(はおり)幅廣(はゞびろ)に、ぶわりと(はお)つて、(むね)頭陀袋(づだぶくろ)()けた、(はな)(たか)い、(あか)(がほ)で、()半眼(はんがん)にした、(まゆ)には(くろ)(まじ)つたけれど、(あわ)(なす)つた(てい)に、口許(くちもと)から(おとがひ)へ、(みじか)(ひげ)(みな)(しろ)い。(ねずみ)のぐたりとした帽子(ばうし)(かぶ)つて、片手(かたて)()(つゑ)(みぎ)手首(てくび)に、赤玉(あかだま)一連(いちれん)數珠(じゆず)()にかけたのに、(ひと)つの(りん)持添(もちそ)へて、チリリリチリリリと、(おほき)()()つて()らし、

「なうまくさんまんだばさらだ、なうまくさんまんだばさらだ、南無成田山不動明王(なむなりたさんふどうみやうわう)をはじめ(たてまつ)り、こんがら童子(どうじ)、せいたか童子(どうじ)甲童子(かふどうじ)乙童子(おつどうじ)丙童子(へいどうじ)、いばらぎ童子(どうじ)酒呑童子(しゆてんどうじ)()のほか數々(かず/\)二十四童子(にじふしどうじ)。」

 と、(ちやう)(わたし)()()ひに、まともに(かほ)()(ところ)で、()(ねむ)るやうにして(さわや)かに(とな)へた。

 (わたし)(ふところ)()(まき)へ、()()けた(とき)であつた。

「お(しん)(まを)せ。」

 と、(むか)うで《あん》をつけて()た、()のお(ばあ)さんが(こゑ)()ける。

「へーい。」と(やつこ)が、(つゝ)んだ(つゝ)みを、ひよいと(をんな)()(わた)しながら、()引込(ひつこ)めず、背後(うしろ)(たな)に、煮豆(にまめ)煮染(にしめ)ものなどを裝並(もりなら)べた(たな)(した)の、賣溜(うりだ)めの錢箱(ぜにばこ)をグヮチャリと()らして、銅貨(どうくわ)一個(ひとつ)、ひよい、と(そら)()げて、一寸(ちよいと)(てのひら)()けながら()つて()る。

 前後(ぜんご)して、

「はい、()げます。」

 と(かすり)衣服(きもの)の、あの弟御(おとうとご)が、廂帽子(ひさしばうし)(よこ)ツちよに、土間(どま)駈足(かけあし)で、母樣(おつかさん)使(つかひ)()て、伸上(のびあが)るやうにして布施(ふせ)する()から、大柄(おほがら)老道者(らうだうじや)は、(こし)()げて、(つゑ)()つた(たなそこ)()けて、(やつこ)兩方(りやうはう)へ、……二度(にど)(いたゞ)く。

 (わたし)()つた。

 ()()(とき)は、(めう)なもので……(また)此處(こゝ)(をんな)一連(ひとつれ)、これは丸顏(まるがほ)()のぱつちりした、二重瞼(ふたへまぶた)愛嬌(あいけう)づいた、高島田(たかしまだ)で、あらい棒縞(ぼうじま)銘仙(めいせん)羽織(はおり)(あゐ)()つた。――着物(きもの)は、(ちや)()つた、(おな)じやうな(がら)なのを()て、阿母(おふくろ)のおかはりに()つた、老人(としより)じみた信玄袋(しんげんぶくろ)()げた、朱鷺色(ときいろ)襦袢(じゆばん)蹴出(けだ)しの、内端(うちわ)ながら、(なま)めかしい。十九にはなるまい新姐(しんぞ)(さき)に、一足(ひとあし)さがつて、櫛卷(くしまき)にした阿母(おふくろ)がついて、()(みせ)(はひ)りかけた。が、(ちやう)行者(ぎやうじや)背後(うしろ)を、(なゝめ)(とり)まはすやうにして、二人(ふたり)とも立停(たちど)まつた。

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