2話 日英協同謀議
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ウッズホールで、六月三日から五日まで、三日間国際会議があったが、これは雲物理学のシンポジウムであった。米国内はもちろんのこと、英、仏、独、スイス、スウェーデン、カナダなどから、この方面の専門家が、ほとんど全部集まった。日本からは、私と北大の孫野教授とが出席した。近年でも珍しく成功した専門的な会議であった。
雲物理学の中では、雪の出来るときの気象条件と結晶の形との関係が、一つの重要な課題になっている。この問題は、人工降雨と関連して、近来脚光を浴びてきているのである。
この研究は、結局人工雪の実験に落ちつくので、私たちの方では、もう二十年前から手がけている問題である。近年になって、英国、米国、カナダなどでも、この問題に興味をもち出して、似たような研究が始められた。
そのうちで、一番熱心でかつ、しっかりした実験をしているのは、ロンドン大学のメーソン教授である。この男は、頭がよくて、実験も器用、その上口も八丁手も八丁である。「メーソンは、一人で雲物理学を全部やるつもりらしい」と、アメリカの連中など蔭口を叩いているが、一寸手に負えない先生である。
このメーソンも、人工雪の実験をやって、気象条件と形との関係を示す図を出しているが、それはわれわれの図と大体似ている。しかし一部ちがったところがあって、それがかなり大切な意味をもっているのである。このことは、前から報告を通じては互いに知っていたが、会ったのは、今度が初めてである。
会議の合い間にときどき話し合ってみたが、実験のやり方が少しちがうので、両者の差がどこから出てくるかなかなか話がつかない。こういう場合に、一番よい方法は、どちらかの実験技術を身につけた男が、先方の実験室へ行って、先方のやり方で実験をくり返してみることである。そうすれば問題は一遍に解決してしまう。
ところがメーソンのところには、適当な男がいない。それで日本から誰かロンドンへよこしてくれないかということになった。それは非常によい考えであって、巧く行けば、数年来の懸案が一遍に解決されてしまうであろう。
ここまでは話はたいへん巧いのであるが、その費用をどうしようかということになった。英国も日本同様、外貨には困っているので、彼の大学からは出せない。それで丁度この会議のスポンサーをした米国立科学財団の幹部の人がやって来ていたので、二人でこの留学の費用を彼の財団から出してくれないかと頼んでみた。
そしたら彼も困ったような顔をして「それはイギリスと日本との間の話だ。どうもわれわれの政府の話ではなさそうだ」という。まさにそのとおりであって、これは日英協同謀議ということになりそうである。もっともアメリカには国際協力のための機関が別にあるから、その方へ斡旋してみようという。どうなるかわからないが、一寸面白い話である。